報われない人間は、永遠に報われない

2017.05.07 Sunday 21:06
0

    「報われない人間は、永遠に報われない」(河出書房新社)を一気読みした。

    書店で何気なく平積みの本をながめていたら、その鮮烈なタイトルと帯に引き込まれたのである。

     

    ーこの世で一番「最低」な愛のはじまりから終わりまでー

     

    自尊心の肥大した男と自己を卑下することでしか自分の存在理由を見いだせない女性。

    「嫌悪」するが惹かれ合う。「罵倒」するが赦し合う。

    孤独になることを恐れるがあまりに、緊張の糸を歩くように。

    女性の名は諸見映子。

     

    「ただ私は必死なだけ。どうかわかって。それでどうか私を一人にしないで。私を暗闇に落とさないで。」

    「こんなにあなたのこと大事に思って、こんなにあなたのことを地獄のように愛している女を、あっさり天涯孤独の身に落とすような真似したら、きっと後悔するからね。」

     

    疑似恋愛から始まったこの二人にとって出口の見えない恋愛は本当に恋愛といえるのか?

    孤独から目をそらせるためだけの逃げ道にしか、いや逃げ道にすらなっていないのではないか。

    自己否定はエスカレートし、自尊心が鎌首をもたげる二人の関係は読むのがつらくなるほどに痛々しい。

    それでも依存し合っている。

     

    そして、二人にとって決定的なことが起きる。

    そこから、別れの場面までは疼痛のように心に刻まれる。

    「私は凡庸の女王。私は諦めの女王。巣の奥で動けない、怠け者の女王で、泣き言の女王で、その他大勢の幼虫の栄養分になるためだけの女王。で、誰からも愛される資格のない頂点にいる。」

    「同情だけが私にふさわしい宝石なのよ。」

     

    しかし、これで物語は終わらない。

    出口の見えない暗い道はどこまでも延びている・・・

     

     

    ふる

    2017.05.06 Saturday 17:25
    0

      JUGEMテーマ:読書

       

      西加奈子の書下ろし作品「ふる」(河出書房新社)を読んだ。

      正直、印象の薄い作品である。西加奈子にしては平凡作ではないかと思う。

      モチーフは女性器である。

       

      誰かの子どもとして産まれて、いろんな人に出会って、いろん経験をして、それを簡単に忘れ、手放し、それでも私たちは、祝福されているのだ。

       

      全身麻痺の老いた祖母の介護をしている中で、祖母の性器を見つめ、同じ女の人であるという思いを深く得る。

      そして、生きていることの意味を主人公の池井戸花しすは改めて知る。

       

      この作品に込めた西加奈子の伝えたい思いは分かるのであるが、それぞれの登場人物や花しすのかかえる心的な葛藤のようなものがあまり伝わってこないために、なかなか他の作品のように共感したり、感情移入したりすることができなかった。

      題材としては面白いと思うので、もう少し丁寧に書き上げるともっと素敵な作品になったのではないかと思う。

       

      今は、エッセイの「ごはんぐるり」を読み始めている。

      こうふく みどりの 

      2017.05.04 Thursday 17:24
      0

        JUGEMテーマ:読書

         

        いいなあと思う作家に出逢うと、恋をしたように読み漁ってしまう。

        その傾向は高校時代から続いている。

        いま、心を奪われているのは西加奈子である。

        今日は「こうふく みどりの」(小学館)を読了した。

        参った。

        何だろう?この圧倒的な魅力は。

        「こうふく あかの」「円卓」でも感じたが、登場人物の造形描写が実にうまい。ひとりひとりの存在感がくっきりとした輪郭をもって行間から立ち上ってくる。

        主人公である高校生「辰巳緑」を取り巻く家族の物語が軸になって展開する。

        西加奈子ワールド全開である。

        小気味よい大阪弁。緑を取り巻く人々の温かさ。

        その中に、はさまれる何やらミステリアスな手紙。

        この手紙の意味が明かされるのは、物語の最終盤。そして明らかになる衝撃の真実。

        こう書くと本格ミステリーのようであるが、そうではない。あくまでも家族の物語である。

        核となっているものは、大好きな人をわが物にしようと純粋に思う情念には狂気が孕んでいるということである。

        狂気ゆえに悲劇がともなう。

        しかし、どんな悲劇であろうとも、自分の目の前の道をおいそれと踏み外すことはできない。

        最後に、アントニオ猪木の引退試合での言葉が、象徴的に引用されている。

         

        この道をゆけば どうなるものか。

        危ぶむなかれ。

        危ぶめば、道はなし。

        踏み出せば、その一足が道となり、その一足が道となる。

        迷わず行けよ。行けば分かるさ。

         

        それぞれの登場人物の人生は一般的な幸福とは相いれないものかもしれない。

        むしろ、過酷さや厳しさが垣間見える人生である。

        だが、読み終えて希望の光が細くとも幽かに見えるような気がするのは、よろめきながらでも確かなある人を愛し、その人の愛を信じ支えにして生きようという力が感じられるからだ。そこに心揺さぶられるのである。

        西加奈子に参っている。

        こうふく あかの

        2017.04.23 Sunday 20:43
        0

          ある日、妻に妊娠したと告げられた。

          僕は、腰をぬかすほど驚いた。いいや、「ほど」ではない。僕は実際、尻餅をつき、勢いテーブルに後頭部を強く打ちつけさえした。

          (中略)

          では、なぜ、妻の妊娠宣言にそれほど驚いたのか。

          この三年ほど、僕たちはセックスをしていなかったからだ。

           

          西加奈子「こうふく あかの」(小学館)の冒頭部分である。

           

          この冒頭部分だけで物語への求心力はぐんと高まる。読んでみたいと素直に思わせる力である。

           

          内容については、あとがきの西加奈子の言葉を紹介することにとどめる。

          現在の大阪の物語だって、100年前のメキシコの物語だって、未来のエジプトの物語だって、そこに人間がいて、太陽があって、月があって、地球がある限り、つながっているのだ!

           

          2039年の東京のプロレスラーの物語が、どんな人間とどうつながって誕生したのか?

          一気読み確実のおもしろ本であり、非常に爽やかな読後感を味わえる。

          伊坂幸太郎の「アイネ クライネ ナハトムジーク」をちらっと彷彿させる内容でもある。

           

          西加奈子。大好きな作家がまた一人増えた。

          地下の鳩

          2017.04.23 Sunday 19:23
          0

            JUGEMテーマ:読書

             

            日曜日の正しい過ごし方である「図書館」での読書三昧もすっかり定着した。

            今日も2冊読破した。

            西加奈子の「地下の鳩」と「こうふく あかの」である。

            どちらも味わい深い佳品である。まずは「地下の鳩」について。

            「地下の鳩」という単行本にはタイトル作と並んで集録されている「タイムカプセル」とが密接に関連している構成になっている。

            主人公は大阪・あべのの夜の世界で生きる人間たちである。

            中学の教師に無理やり犯される形で性体験をしたことで、自分の意思が体から離れていく感覚を覚え、「自分は汚れている」というねじれた安心感をもつ女 みさを。

            そのみさをに惚れ、たった一度の性交で自分の毎日の糞のような仕事に見切りをつけたいという過去の自分勝手な自尊心が際限なく溢れ出る吉田。

            暗い過去をもつ二人がおそれを抱きながら近づき、関係を少しずつ深めていく描き方が実にうまい。

             

            吉田は、みさをの手を握り返した。強く、握り返してみた。左目だけのみさをは、笑っていたが泣いているような顔をしている。

            そして、吉田にも、それは唐突に訪れた。この女を、自分のものにしたい。そう思った。

            みさをの過去の男たちを、片っ端から消し去りたい。みさをを、そういう場所から、遠く離れたところに、連れていきたい。

            それは、香港でも、台湾でもなかった。吉田は、手に力をこめた。みさをの手はますます白くなったが、構わない。

            飛行機は、静かだ。落ちない。

             

            そして、その二人の関係が展開していく中で大きな事件が起きる。

            おかまバーのママ「ミィミィ」の沖縄でのいじめ体験から湧き上がる壮絶なトラウマともいえる悪夢が蘇るのである。

            この「タイムカプセル」は終盤にかけて、とてもサスペンスフルな展開で、ドキドキしながらページを繰っていった。

            そして、最後、悪夢の地ふるさとの沖縄でミィミィがアイスピックを突き立てたのは・・・

             

            あの頃の自分は死んでいたと思っていた。心を殺して、嘘をつき続けていたと。だが、死んでいたのではない。生きてはいなかったかもしれないが、死んではいなかった。何故なら自分はここまで、生きてきたのだ。全力で、正直に嘘をつき、ここまで生き延びてきたのだ。

             

            220ページの本であるが、その内容の濃密さに圧倒される。そして、読書の喜びに包まれる。

            苦しみの中からほのかに見える灯。それが本当の希望であろう。

            素晴らしい一冊である。

             

            学校では教えてくれない 国語辞典の遊び方

            2017.04.22 Saturday 13:22
            0

              先日、図書司書の先生と話をしていたら、三浦しおんの「舟を編む」の話題になり、その流れの中で、三浦しおんが解説を書いている芸人のサンキュータツオ「学校では教えてくれない 国語辞典の遊び方」(角川文庫)を紹介していただいた。

              昨日、一気に読んでしまった。

              辞書作りについては、以前紹介したと思うが辞書作りにかけた二人の男を取り上げた 「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」を読んで、そのあまりのおもしろさに感動した経験があるので、興味津々で読み進めた。

               

              国語辞典の蔵書数が200以上ある著者ならではのユニークな比較対象にうならさらると同時に、国語辞典を新たに買って読みたい気持ちになった。特に、気に入ったのが「ベネッセ 表現読解国語辞典」である。

              語釈ではなく、文章の表現方法の違いを変えたり、書き方に一工夫したいと考えたりしている人間に適している辞書である。

              ブログを書き始めて11年目に突入しているのであるが、表現方法にマンネリ化を感じていたので、是非読んで参考にしたい。

               

              内容に関して、一番心をとらえたのは、やはり「新明解国語辞典」をつくった山田忠雄の初版での言葉である。

              「思えば、辞書界の低迷は、編者の前近代的な体質と方法論の無自覚に至るのではないか。先行書数冊を机上に広げ、適宜に取捨選択して一書と成すは、いわゆるパッチワークの最たるもの、所詮、芋辞書の域を出ない。・・・」

              あまりにも強烈な言葉のパンチ力である。

              この言葉は当時辞書界の隆盛を誇っていた新村出 編の「広辞苑」に対しての批判であったと考えられている。

              語釈に対して「コピペできるものならしてみろ!」とでもいうくらいの気迫の解釈はここから生まれた。

              その独壇場が「恋愛」についてである。

              新明解の解釈を超えるものはおそらくないであろう。だから私は好きだ。

               

              この世界にアイは存在する

              2017.04.16 Sunday 16:48
              0

                JUGEMテーマ:読書

                 

                西加奈子「i」(ポプラ社)を読んだ。

                先日、発表があった2017 本屋大賞にノミネートされていた作品である。

                惜しくも7位に甘んじたが、読み応えのある西加奈子らしい読後感のよい作品になっている。

                主人公のアイがシリア難民であり養子としてアメリカ人と日本人の養父母に引き取られてから、結婚をするまでの人生を描いている。

                裕福で何一つ不自由のない生活を送っていることに罪悪感をいだき、なぜ私は選ばれたのか。選ばれなかったその他多くの難民やシリアの内戦で亡くなった人々と何が違うのか。自分が属する血液の大木=ファミリーツリーをもたなかったアイが再三苛まれる「この世界にiは存在しません」という問いと懸命に向き合いながら、自己の存在理由を探る物語である。

                 

                渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。勿論、興味本位や冷やかしで彼らの気持ちを踏みにじるべきではない。絶対に。でも、渦中にいなくても、その人たちのことを思って苦しんでいいと思う。その苦しみが広がって、知らなかった誰かが想像する余地になるのだと思う。渦中の苦しみを。それがどういうことなのか、想像でしかないけれど、それに実際の力はないかもしれないけれど、想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う。

                 

                いま、世界は米朝の関係だけでなく、この本にも取り上げられているシリアの情勢も含め、混迷を極めている。ある意味、絶望的な空気が静かに覆いつくそうとしている。だからこそ、この本が発しているメッセージは強靭なのだ。

                どんなに名もない小さないのちにも存在理由はある。そのことの意味を静かに重く受け止めたい。

                 

                「この世界にアイは存在する。」

                 

                 

                一人っ子同盟

                2017.04.09 Sunday 22:17
                0

                  JUGEMテーマ:読書

                   

                  重松清「一人っ子同盟」(新潮社)を読み終えた。

                  重松清にしか描けない世界観が十分にあふれている作品であった。

                  昭和40年代。自分自身が丁度、小説中の主人公と同じ小学生だった頃、「一人っ子」といえば、何か特別視されていた時代であった。

                  二人や三人兄弟がスタンダードであり、一人っ子は何か異質という目で見られていた。

                  なぜ、そう思うかというと自分自身が一人っ子であり、そういう目で見られてきたからである。

                  「一人っ子だからわがまま」「一人っ子だから恵まれている」

                  ステレオタイプ的な否定的な見方をされてきたような気がする。

                  一人っ子だからゆえの心の中の苦しみがあることなど全然頓着されないという時代であった。

                   

                  この小説はそういった一人っ子の主人公たちに視点があてられている。

                  やはり、それぞれに小学生としては重すぎる楔を心に秘めている。

                   

                  どんなに一生懸命にがんばっても、願ったことがすべてかなうわけではないし、だれ一人悪いひとや間違っているひとはいなくても、すべてが思い通りになるわけではない。

                  どうにもならないことって、あるんだよー。

                   

                  ぼくとハム子にとっての最後の「奇跡の3分間」が訪れて、静かに光に翳りが交り始め、夕日が沈むエンディングの場面の余韻は強烈に心に沁みこんでくる。

                  ブルース 自殺という絶望の処方箋

                  2017.04.08 Saturday 21:48
                  0

                    戦後のアメリカを代表する作家のひとりであるカート・ヴォネガットの遺作といわれる「国のない男」を読んだ。

                    鋭い視点に立った現代社会批判は彼の死後10年以上たったいまでこそ、色褪せることなく輝きに満ちている。

                    しかし、どこかに人間らしい温かみが感じられるところが最大の魅力であろう。

                     

                    心に響く言葉が数多く出てくる。

                    そのひとつを紹介したい。それは音楽に関する言葉。

                     

                    アメリカに奴隷制があった時代、奴隷所有者の自殺率は、奴隷の自殺率をはるかに超えていたらしい。

                    マリ(作家名)によれば、その理由は、奴隷たちが絶望の処方箋をもっていたからということだ。白人の奴隷所有者たちにはそれがなかった。奴隷は自殺という疫病神を、ブルースを演奏したり、歌ったりして追い払っていたのだ。

                    ブルースは絶望を家の外に追い出すことはできないが、演奏すれば家の隅に追いやることはできる。

                     

                    この世界中に広がっている鬱状態によく効く特効薬はブルースという贈り物だ。

                     

                    今日私たちにとって耳に馴染みのポップミュージックの源はブルースであった。

                    それはアフリカ系アメリカ人がまだ奴隷だったころに全世界に与えてくれたものである。

                    苦しみの中から生まれた音楽の種子はベートーヴェンなどが生み出したクラシック音楽同様に私たちの心に潤いを与える果実となった。

                    漱石の随想集 硝子戸の中 

                    2017.04.01 Saturday 21:43
                    0

                      JUGEMテーマ:読書

                       

                      夏目漱石の随想集「硝子戸の中」を一気に読み終えた。

                      中でも、興味深かったのが 三十に書かれている「継続」についてである。

                      友人からこの言葉を教えてもらった漱石は自分の健康状態について他人にいう時には「どうにかこうにか生きています」をやめて「病気はまだ継続中」に改めたのだ。

                      そして、発展してこう考えるようになる。

                       

                      継続中のものは恐らく私の病気ばかりではないだろう。(中略)人の心の奥には、私の知らない、また自分達さえ気の付かない、継続中のものがいくらでも潜んでいるのではないか。もし彼等の胸に響くような大きな音で、それが一度に破裂したら、彼らは果たしてどう思うだろう。所詮、我々は自分で夢の間に製造した爆裂弾を思い思いに抱きながら、一人残らず、死という遠い所へ談笑しつつ歩いていくのではなかろうか。

                       

                      この「継続」という考えは、この随想集の後に書かれた自伝的小説「道草」の主人公である健三の「世の中に片付くなんてものはほとんどありゃしない。いっぺん起こったことはいつまでも続くのさ」という言葉に如実に表れている。

                      片付かないものに心をとらわれた人間の葛藤を描くことが漱石の小説の大きな命題だったのではないか。

                      そんなことをふと考えた。


                      PR
                      Calender
                          123
                      45678910
                      11121314151617
                      18192021222324
                      252627282930 
                      << June 2017 >>
                      星座占い
                      天気予報
                      ようこそ!
                      ブログパーツUL5
                      Selected entry
                      Category
                      Archives
                      Recent comment
                      • 村上春樹の世界にはまっていく
                        うなぎ
                      • 「幸福な生活」 最後の一行の鮮やかさ
                        藍色
                      • 過剰なセキュリティがストレスの原因
                        うなぎ
                      • 田中正造の言葉
                        noga
                      • 国防軍という言葉
                        村石太ダー&コピペ星人
                      • 衆議員選挙を前に考えたこと
                        noga
                      • 規範意識の欠如したアメリカ軍の正体
                        noga
                      • シリアがかかえるキリスト教徒の複雑な事情
                        Takeo Watanabe
                      • 天声人語に物申す!
                        嫌チャイナ
                      • 2030年原発ゼロは嘘八百 国民愚弄内閣の正体
                        noga
                      Recent trackback
                      Link
                      Profile
                      Search
                      Others
                      Mobile
                      qrcode
                      Powered
                      無料ブログ作成サービス JUGEM