三四郎と門

2017.02.26 Sunday 19:08
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    さしずめ、ことしは夏目漱石イヤーとなった。

    「三四郎」と「門」を立て続けに読破した。

    明治知識人の悲劇3部作と言われてはいるものの、そのスタートである「三四郎」と最後の作である「門」とではだいぶ趣は違う。

    「三四郎」は悲劇というよりも、熊本から大学入学のために上京した三四郎の「美彌子」という女性への淡い恋愛感情や自分を取り巻く周囲の環境に戸惑い驚きながらも、己の存在の意味を見つめていくという「青春小説」である。

    それ故に、描写の中にも闊達な空気が流れている。

     

    ところが「それから」を経ての「門」は見事なまでの季節の移ろいの描写と共にある秘密を抱えながら、親戚や故郷との縁を断ち切った夫婦の日常が静謐な筆致で淡々と綴られるモノトーンの作品である。

    そして、その秘密が明かされるのは物語の終盤のわずか数ページ。

    そのある意味心理サスペンス的な構成は読者に主人公である宗助とお米に一体何があったのかと想像力を喚起する見事な手法である。

    そして、突然、妻に内緒で禅門をくぐる宗助の心理。

    最後の「うん。しかし、またじきに冬になるよ。」の言葉のもつ意味の大きさ。

    この最後の一文は冒頭につながり、永久運動の輪廻のように宗助とお米の人生そのものを表しているようでもある。

     

    解説で柄谷行人がこう書いている。

    「門」での三角関係の把握は、「それから」とは違って愛または人間の関係はもともと「三角関係」にあるのではないかと感じさせる程度に深化している。

     

     

    不調の2月 抗生物質漬け日々

    2017.02.25 Saturday 20:28
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      JUGEMテーマ:日記・一般

       

      2月も残りわずかである。

      バイオリズムからすると2月には体調を崩しやすい傾向があったが、案の定、倒れてしまった。

      大腸の憩室炎の再発と皮膚の腫瘍 アテロームの発症である。

      どちらも何とか落ち着いてきたが、ポリープを除去したわけではないので再発の可能性はつきまとっている。

      抗生物質漬けの日々は流石に辛かった。

      だが、体調が悪いということは生活習慣を見直すことにもつながるので意識的にアルコールの摂取を控えたので体調は芯からよくなってきた。

      けがの功名である。

      そして、じっくり音楽や読書に親しむ時間も増えてきた。

      いまは夏目漱石の「三四郎」を読んでいる。

      土曜の夜の至福の時間が過ぎていく。

      子どもたちに見せたいドラマがここにある

      2017.02.20 Monday 19:23
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        JUGEMテーマ:日記・一般

         

        阪神・淡路大震災の際、東海道線は寸断され、JR六甲道駅は崩れ落ちた。

        陸の孤島となった神戸を救うために、復旧作業に取り組む名もなき「地上の星」たち。

        通常なら2〜3年かかる工事だが、片道2時間半をかけて通勤通学する被災者の足を取り戻すため、決死の作戦がとられた。

        前代未聞のジャッキアップ作戦である。

        24時間2交代制。休みなし。自宅を離れての泊まり込み。

        不眠不休の作業が続いた。

        余震の怖さと闘いながら、何と72日という奇跡的な短期間で復旧を成し遂げた男たちの物語である。

        私は、青函トンネル貫通の時の映像を見て泣いてしまったのだが、今回も、4台の重量のある貨物車が同時に線路を通過した時の試験走行を見てやはり泣いてしまった。寸断された東海道線が元に戻った瞬間である。まさにすごいの一言。

        日本には名もなき「地上の星」が無数にいる。

        それは誇り高きことである。

        プロジェクトX。子どもたちに見せたいドラマがここにある。

        漱石の異色作「坑夫」

        2017.02.19 Sunday 18:48
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          今年に入って夏目漱石の小説ばかり読んでいる。

          いやはや実におもしろい。

          遅ればせながら漱石の小説に出会えたことは稀有の喜びである。

          今日は図書館で「坑夫」を読み終えた。

          漱石の異色作である。

          漱石のもとを訪れた未知の青年の告白をもとに、小説らしい構成を意識的に排除して書いた作品であるからである。

          鉱山の坑道を歩くながらカンテラを貧しい灯をたよりに迷路のごとくの地下に下りていくシーンはまさにルポルタージュそのものである。

          小説らしい筋立ては皆無である。

          ただ、三角関係の末のある恋愛事件を引き起こしたために世の中に顔を出したくない一心から、穴倉に引きこもることを決意する主人公の苦悩は、他の漱石の作品の底に流れている明治知識人のそれと同様のものかもしれない。

           

          獰猛なる異様な風体の坑夫たちに「新入り」と嘲られ、蔑まれるなか、迷い込んだ坑道の中で奇跡が起きる。

          安さんとの出会いである。

           

          「ここは人間の屑が抛りこまれる所だ。全く人間の墓所だ。生きて葬られる所だ。一度、踏み込んだが最後、どんな立派な人間でも、出られっこのない陥穽だ。大方、ポン引きの言いなり次第になって、引っ張られてきたんだろう。それを君のために悲しむんだ。人一人を堕落させるのは大事件だ。殺しちまう方がまだ罪は浅い。(中略)君が堕落すれば、君のためにならないばかりじゃない。」

           

          何が人間を堕落させうるのか。道義とはなにか。

          この異色作の背景にあるものは実は相当に重いテーマである。

           

           

          カーネル・サンダースの物語

          2017.02.18 Saturday 21:52
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            久々に伝記を読んだ。

            65歳から世界的企業を興した伝説の男とサブタイトルがついている。

            「カーネル・サンダース」の物語である。

            KFCの創始者であるカーネル・サンダース。

            しかし、創始したきっかけは数々の試練と挫折の末の苦渋の決断であった。

            正義感の強さと持ち前の頑固さゆえに解雇されることも多く、事業者としてガソリンスタンドを経営するまでに13の職業を経験している。

            そして「他人のために一生懸命に働くこと」という生涯にわたってぶれない信条を身につけた。

             

            ハイウエイ建設に伴い、客が激減しレストランを手放すことに決めた時が65歳。

            誰しもカーネルに引退を勧めた。

            カーネル自身心が折れかけたが、国が支給してくれる年金がたった月105ドルと知った時、まだやれることはないのかと考えて行動した。

            それが7つの島からの11種類のハーブとスパイスというKFCの秘伝の作り方をレストランに売り歩くという画期的なビジネスである。

            「フランチャイズ」の始まりである。

            そして、わずか4年後には全米で200店舗を超えることになる。

             

            中途半端であることを毛嫌いし、一生懸命に働くことに情熱を傾けた信念の男の物語である。

            読み終えた後、清々しい風が心に湧きおこった。

            地獄

            2017.02.13 Monday 20:15
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              JUGEMテーマ:音楽

               

              最近、野狐禅ばかりを聴いている。

              もう解散してしまったのだが、大好きな竹原ピストルが組んでいた二人組である。

              スタジオアルバムとしてはラストになってしまった「野狐禅」が実にいい。

              荒々しい竹原ピストルらしい高速テンポの歌詞はない。

              それが物足りないというファンも少なからずいるだろう。

              しかし、楽曲のもつ力。言い換えれば歌詞の力とメロディのバランスが絶妙なアルバムである。

              「シーグラス」「東雲」。本物のラブソングがここにある。軽佻浮薄に流されない本物の歌だ。

              だが、今日は敢えて、一曲目の「地獄」を紹介する。

               

              銭でも降ってこないかなと

              アホ面で空を見上げれば

              慰めみたいな粉雪が 

              灯油臭いジャンパーに落ちる

               

              閉じ忘れた瞼の奥に

              朝日が差し込んでくる

              バイト雑誌を放り投げ

              冷めたメシに箸を突き立てる

               

              過去を消せる消しゴムをくれよ

              ついでに今を消せる消しゴムをくれよ

               

              天国なんてものからは程遠く

              暮らしというよりはむしろ地獄 地獄 地獄

              笑っちまうのはそれでも明日を信じていることさ

               

              世界観が西村賢太の私小説とだぶる。それは人間の生身からの叫びである。

              心にずしんと響いてくる唄だ。

              夏目漱石の哲学にふれる

              2017.02.12 Sunday 17:27
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                JUGEMテーマ:読書

                 

                これが夏目漱石という作家のもつ磁力なのか。

                いま、立て続けに漱石の小説ばかりを読んでいる。

                正直、今まで敬遠してきた作家の一人である。

                小学校時代に「吾輩は猫である」を読み、面白いとは感じながらも芥川龍之介や太宰治のように小説世界に引き込まれることはなかった。堅苦しい文体。難解な言葉。そういう印象が強く残った。

                しかし、それは大きな間違いであることに50年経って気づかされた。

                夏目漱石の本領はシリアスな小説の中にこそ発揮される。それは明治時代を生きた知識人の恋愛観を含む倫理観や人生観。

                学問やお金とは何かを深く考えていくなかで立ち上ってくる空気に彩られた世界である。

                今日は、そんな漱石の思想や哲学を最も鮮やかに表したといわれる中編「二百十日」と「野分」を一気に読んだ。

                特に、「野分」の主人公である白井道也の生き方に感じ入るものがあった。

                理想主義が高じて、中学教師という職業を全うすることができず、世の中の人を救うためには、人に理解されなくとも、高尚な理想に基づいてただ独り生きるのみという彼の言葉は、周囲の人々や妻、血を分けた肉親にさえ理解されず、頑固者と責めを負う。

                しかし、決して揺らぐことはない。

                 

                物語の終盤において演説会にて彼の語るシーンは小説といえどもすさまじい迫力に満ちている。

                「理想は魂である。魂は形がないから分からない。ただ、人の魂の行為の発現するところを見て、髣髴するに過ぎん。惜しいかな、現代の青年はこれを髣髴することができん。事実上、諸君は理想をもっておらん。家にあっては父母を軽蔑し、学校にあっては教師を軽蔑し、社会に出でては紳士を軽蔑している。これなどを軽蔑しうるのは見識である。ただし、これらを軽蔑しうる為には、自己により大なる理想がなくてはならん。自己に何らの理想なくして他を軽蔑するのは堕落である。」「理想は諸君の内部から湧き出なくてはならぬ。諸君の学問見識が諸君の血となり肉となり、遂に諸君の魂となった時に、諸君の理想は出来上がるのである、付け焼刃は何にもならない。」「理想のあるものは歩くべき道を知っている・・・」

                 

                この言葉にもう一人の重要な登場人物である高柳周作は深く共鳴するのであるが、読者である私自身も教職に身を捧げている者として心に強く刻まれた。裏返せば、夏目漱石の文学者としての生き方を示した言葉であろう。

                 

                この小説が武者小路実篤や志賀直哉に深い感銘を与えたのは有名な話である。

                NEWPORT1958 モダンジャズの名盤

                2017.02.08 Wednesday 22:22
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                  JUGEMテーマ:音楽

                   

                  ここ数日は大好きなクラシック音楽からは遠ざかっている。

                  無性にジャズが聴きたくなって、デイブ ブルーベック カルテットライブの名盤「NEWPORT 1958」を聴いている。

                  オリジナルの一曲を除いてすべてがデュークエリントンナンバーで構成されている。

                  それまでに演奏したことのない「昔はよかったよ」「ジャンプ・フォー・ジョイ」「Cジャム・ブルース」などが含まれており、粋にスイングする瑞々しい演奏が聴ける。

                  最大の聴きどころは「パーディド」であろう。

                  12分を越えるアップ・テンポのナンバーで、ポール・デスモンドのアルトサックスが絶妙である。

                  個人的に一番好きなのが最後の「Cジャム・ブルース」である。

                  ジョー・モレロのドラムをフューチャーした最高に生かしたナンバーである。

                  このカルテットの表の立役者はポール・デスモンドであることに異論はないが、土台を支えていたのはジョー・モレロのブラシを生かした技巧満載のドラミングにあったと思っている。

                  乗りが格段によくなった。(ジョー・ドッジには申し訳ないが・・・)

                  今日もこれから聴きながら眠りにつこう。

                  それから

                  2017.02.05 Sunday 18:18
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                    JUGEMテーマ:読書

                     

                    夏目漱石の「それから」を読了した。

                    「三四郎」「門」と並び明治知識人の悲劇を描いた3部作と俗に言われる。夏目漱石が日本の文学史上初めて「姦通」を新聞連載小説として著した作品である。

                    背景には日露戦争後のにわか景気によって形成された新興ブルジョワ社会がある。

                    知識人を気取る、主人公 長井代助は生活欲のために働くことをよしとせず高尚、泰然を気取っている一方で、30前にして父親の経済的な庇護を受けている身である。政略結婚に欺瞞を感じ、自分の理に頼り、のらりくらりと先延ばしにして生きている。

                    そんな代助の抱える一番の大きな問題は心の中に潜む「無意識なる偽善」である。

                    そして、ついには己の「無意識の偽善」によって苦しみ、身動きが取れなくなり、自然に帰るという帰結点を見出す。

                    自然とは、結婚という枠組み(不自然な制度)の外にある、学生時代の頃のような自分の情動のままに生きる恋愛である。

                    最終盤、かつての恋心を呼び覚まされた友人の妻を「俺にくれ」と友人に迫る場面は鬼気迫るものがある。

                    自分の行動の理を露ほども疑うことなき姿は滑稽というにはあまりにも悲しい。

                    そして、兄から金輪際の絶縁を叩きつけられた挙句にとる行動の描写は狂気ですら感じさせる。

                     

                    「焦る 焦る」「ああ動く。世の中が動く。」彼の頭は電車の速力をもって回転しだした。回転するに従って火のようにほてってきた。これで半日乗り続けたら、焼き尽くすことが出来るだろうと思った。

                    こころ

                    2017.02.03 Friday 22:47
                    0

                      JUGEMテーマ:読書

                       

                      夏目漱石「こころ」を初めて読んだ。

                      この作品は、自分が尊敬する先輩が人生における一冊と言っていた本である。

                      読み終えて、深い澱のようなものが心に堆積している。

                      それは、「罪と罰」を読了したときの感覚と似ている。

                       

                      「死んだつもりで生きて行こうと決心した心」をぐいと握りしめて動けなくさせる恐ろしい力。

                      その力は「お前はなにもする資格のない男」と締め付ける。

                      波瀾も曲折のない単調な生活を続けてきた私(主人公)の内面に常に湧き上がる苦しい戦争。言い換えればそれは決して解放されることのない心の牢獄である。

                      己を心の中の牢獄に閉じ込めたものは一瞬の嫉妬に駆られたエゴイズムと罪の意識。

                      その根底にあるものは、自分を裏切った叔父を憎みながらも、結局自分も叔父と同じではないかという抜き差しならない「哀しみ」である。

                       

                      そして、エゴイズムと良心の葛藤が心の中で激しくせめぎ合いを続けていく中で決意した主人公の行動とは・・・

                       

                      裏切りや不倫が大手を振って闊歩している2017年だからこそ読むべき小説である。

                       

                      人間の「こころ」の本質を否応なしで突きつけてくる傑作である。


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