10億人が聴いた「歓喜の歌」の真実が、ドイツ人研究家によりいま初めて明かされる!
この帯に惹きつけられ、衝動買いしてしまった「交響曲第九の秘密」(ワニブックスPLUS新書)。
ベートーヴェン好きの自分にとっては、興味深い内容であり一気読みした。
何と言っても一番の驚きは、日本で第九が初演されたのは、第一次大戦後に日本の捕虜収容所となった徳島県坂東町においてのドイツ人捕虜によるものであったという事実である。
この捕虜の中に、パウル・エンゲルというバイオリニストがいなかったならば、演奏は成立しなかった。
また、収容所の所長であった松江陸軍大佐の外国人捕虜に対しての寛容さがなかったならば実現は不可能であった。
1918年のことである。
いくつもの奇跡に彩られて、我が国の第2の国歌ともいえる存在になっている第九の合唱。
本題の第九の合唱に込められたベートーベンの思いについてであるが、彼はキリスト教の一神教的な考えを伝えたかったのではない。
もっと普遍的な、人間を肯定し、ポジティブに生きる思いこそをこの歌に託した。
生きていること=苦しみの連続であったベートーヴェン。
幼少の頃は父親の虐待に近い暴力に怯え、17歳から独力で生きて行かねばならなかった。
そして、鬱病に苛まれるなか、幾度か自殺を決意するも、生きることをやめない強靭な意志。
そんなストレスとの戦いの中で、音楽家にとっての生命線ともいえる難聴は悪化し、ついに完全に音のない世界に入る。
しかし、彼はその無音の中で、真実の悟りの境地に至るのだ。
そして、彼が遺した交響曲第9番こそ、彼が人々に伝えたかったメッセージが込められている・・・
それは、否定的な感情を振り払い、より積極的な気分を自分の中に創り出すこと。
そして、生活の中に愛を見出し、与えられるものを待つのではなく、誰かの最良の友人になるべく努めること。
自分の愛を誰かに与えることの大切さを語っている。
決して愛に恵まれ人生とはいえないベートーヴェンがたどり着いた至福への心境。
読み終えた後、改めて彼の厳しくも真摯な生き様に心打たれている。