人生はうまくいくことよりいかないことが多く、今もそういう状況にはまっている。
そんな時は、静かに書に親しむに限る。
いま、司馬遼太郎の本の魅力にひかれている。
その魅力は強い磁力をもっている。
日本建軍の祖である大村益次郎を描いた長編「花神」のあと、10篇以上の短編を立て続けに読んだ。
その中で特に印象深かったのは、名作の誉れ高い「アームストロング砲」である。
幕末、佐賀藩は日本で一番ともいえる先進的なモダンな藩であった。
「勉学は合戦である。」
藩の殿様である鍋島閑叟のこの独自の考えに基づく国づくりは軍隊の制度も兵器も西洋の二流国並みに近代化されていた。
その中でも、生産国のイギリスでさえも完成度をあげるために苦心した最新鋭の大砲である「アームストロング砲」の製造への情熱は並々ならぬものがあった。
そして、藩随一の秀才といわれた秀島藤之助は自分の精神が崩れ去るまで、この砲の砲身の精錬に命を傾けた。
発狂した秀島は座敷牢にとらわれ、そのまま死ぬのだが、その研究は他の研究者たちに引き継がれ、数年後、上野において幕府軍の最強ともうたわれた彰義隊を殲滅する伝家の宝刀的な役割をこのアームストロング砲は果たすのである。
短編でありながら、幕末という一種異様な時代の空気感の中で、最新鋭の兵器づくりに取り組んだ鍋島閑叟の先見性や研究者たちの姿が生き生きと描かれており、一気に物語の中に引き込まれた。
今は同じ幕末物の長岡藩の家老「河井継之助」の物語「峠」を読んでいる。
すこぶる面白さに圧倒され、感動している。