清張 未読の短編集「東経139度線」の底知れぬ魅力

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    JUGEMテーマ:読書

    先日、大好きな女性と本について会話する機会があった。

    「今までに読んだ本の中で、一番心に残った本は?」と問うと、彼女はパールバックの「大地」と即答した。

    ノーベル文学賞を受賞した名作であることは知っていたが、自分は未読であることを伝えた。

    突然のそういう問いかけに、すぐに答えられるというのはとても素敵なことだと素直に思えた。

    そして、自分に置き換えてみた時に、何と答えるだろうかと考えた。

    その問いを今も続けているのだが、単純に小説世界の魅力に引き込んでくれた高校時代を思い出してみると、その答えは松本清張の「砂の器」に行き着いた。

    野村芳太郎の映画もその原作の魅力を一段と際立たさせる役を担った。

    日本映画史上に残る名作である。

    近年でもテレビドラマ化され話題を集めた。

    以前にも書いたことがあるのだが、もしかしたら一番影響を受けた小説家は松本清張かもしれない。

    高校から大学時代という感性が一番鋭かった時期に最も多くの著作を読んだのが松本清張である。

    長編から短編まで読んだ。読みまくった。

    そして、今、またその作品に触れている。文藝春秋から出されている松本清張の全集は60近くある。

    まさに小説界の巨峰である。

    その中の未読であった短編5 「東経139度線」を読んでいる。

    いやはや、やはりその小説の持つ凄味というか圧倒的な構成力は短編とはいえ、読者を惹きつけてやまない底知れる力を秘めている。

    全部で18作品収録されているのであるが、トリックやアリバイ崩しといった謎解きの妙もさることながら、推理小説という狭小の枠組みを超えた、リアリスティックに人間の情念や性や業を炙り出す点に清張の魅力はあるのだと確信している。

    古代史に造詣の深かった清張ならではの「火神被殺」、トリックの極点とも言える「巨人の磯」「内なる線影」、倒叙ミステリーの名品「恩義の紐」など。とにかく、ひとたび、その世界に引き込まれたなら、逃れられない面白さがある。

    改めて清張の奥深さに酔いしれている。

     


    一気読み必至のスパイ小説 裏切りの晩餐

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      JUGEMテーマ:読書

      スパイ小説はほとんど読まないのであるが、書店で冒頭部分を立ち読みして、思わず衝動買いしてしまった一冊がある。

      「裏切りの晩餐」(岩波書店)である。

      派手な世界を駆け巡る諜報戦ではなく、息詰まる心理戦である。

      ウィーンを舞台に起きたテロ事件の真相をめぐり、かつての仲間であり恋人同士であったシーリアとヘンリーの駆け引きはまさに一瞬たりとも目が離せない。

      図書館で一気読みしてしまった。

      裏切り者はどちらか?

      なぜ裏切ったのか?

      そして、衝撃の結末。

      こう来れば、面白くないわけがない。

      真相に近づくにつれて心拍数が上がり、鼓動のスピードは増す。

       

      「僕たちの関係が、君にとって全く意味がなかったと、君は本当に言っているのか? しかし、同じ部分がその答えを恐れている。この恐怖が裏付けられてしまったら、自分の選択が非難に値するだけでなく、無意味だったことになってしまうのだ。」

       

      スパイ小説の傑作の誕生である。


      アックスマンのジャズ

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        2014年の英国推理作家協会賞最優秀新人賞に輝いた「アックスマンのジャズ」(早川書房)を読んだ。

        材は1918年から1919年にかけてニューオーリンズで起きた連続斬殺事件である。

        この未解決事件に作家のレイ・セレスティンは大胆な設定を施し、8年後に蘇らせた。

        ニューオーリンズ市警の警部 マイクル・タルボット、元刑事で服役囚であったルカ・ダンドレア、ピンカートン探偵社の事務員 アイダ・デイヴィスという3人の視点で一つの不可解な事件の真相に迫るという妙味を味わえる作品に成っている。

         

        「ジャズを聴いていない者は斧で殺す」という恐るべき殺人予告の背景に隠されている真相とは何か?

        なかなかに骨格のしっかりしたミステリーに仕上がっている。

        マイクルとルカの因縁やアイダを助けるルイス・アームストロングの存在感なども作品に厚みを加えている。

        ルイス・アームストロングはジャズジャイアント ルイ・アームストロングをモデルにしており、語られる話はそのままに実話に沿ったものらしい。

        アックスマンの事件が起きた当時、本当にルイ・アームストロングがニューオーリンズに住んでいたことが今作品の登場につながったと作者が語っているように、作者の入れ込みようは多くのエピソードに紙面を割いているところからもひしひしと伝わってくる。

        ジャズ好きには堪らない隠し味ではないだろうか。

        ミステリーの追求という点において、やや緊張感を削いでしまうという点がなきにしろあらずだが。

         

        しかし、これだけの内容の本であるが、昨年のこのミスでは20位以内にすら入っていない。

        昨年度は良作が豊富ということもあったと聞くが、個人的には素晴らしい作品であると太鼓判を押したい。

         

        アイダがニューオリンズを離れ、本格的に探偵としての腕を磨くために雪降るシカゴに降り立ち、探偵社のドアを叩くラストシーン。

        あっという驚きが待っている。心地よい読後感であった。

         


        2017−18シーズン開幕 サッカープレミアリーグ

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          JUGEMテーマ:スポーツ

          いい時代になったものだ。

          サッカー プレミアリーグの開幕全試合が無料で視聴できるのだから。

          まず、見たのがクロップ率いるリヴァプール対ワトフォード戦である。

          サッカーのチームで一番好きなのがリヴァプールである。

          伝説のチャンピオンリーグ決勝、「イスタンブールの奇跡」と言われた逆転劇が今でも心に強く残っている。

          最近の停滞期をようやく脱する気配が見える昨年の4位。

          クロップの真価が問われるのは今季であろう。

          試合は3対3のドローであった。

          前半はリヴァプールらしさがあまり見られずやきもきしたが、コウチーニョ不在の中でよく3点を取ったと思う。

          最後のロスタイムでの失点はいただけないが。

           

          今日はモウリーニョ率いるマンチェスターユナイテッド対ウエストハムの試合を見ている。

          モイーズ、ファン・ハールの時代はまさにマンチェスターらしさの欠片のないつまらない試合が多かったが、監督がモウリーニョに変わるだけでこんなにも魅力的な試合ができるのかと思うくらいいい試合運びができている。

          実況のアナウンサーや解説者も語っていたように、今年のマンチェスターユナイテッドからは目が離せない。

          特に、MFポグバ、FWルカク両選手の活躍に期待を寄せたい。

          しばらくプレミアリーグからの関心が遠ざかっていたので、両選手のことは知らないのであるが、今日の試合の中での動きを見ていて惹きつけられるものがあった。コグバ、ルカクともに身長190以上あるのだが、動きにキレがあり、特にコグバは解説者によれば足の指の柔軟性、巧緻性が素晴らしく、体の大きさに比してのボールタッチの柔らかさやバイタルエリアに入った時のバランスの良さを挙げていた。前チームがユヴェントスということもあり、その才能は折り紙つきである。

          19歳のラシュフォードもスピードがあっていい選手だ。

           

          久々に今シーズンはプレミアリーグのゲームに目を向けて過ごしたい。


          Kiss Me Baby

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            JUGEMテーマ:音楽

            夏もあれよあれよと言う間にもう中盤である。

            毎年、自分にとっての「夏歌」というものが誕生するのだが、今年はこれである。

            平井大kiss me baby

            3年前のアルバムに収録されている軽快なサーフロックチューンである。

             

            もう一度 Kiss Me Baby

            忘れられない My Angel

            二度と戻れない灼熱のSummer Holiday

            今日もLonely Boy

            海に揺れるGood-bye Sunset

             

            黄昏時のKissは

            サヨナラを意味する so tender

            二度と逢えない幻のSufer Girl

            叶わない夢の果ては真夏のBroken Heart

             

            ビーチボーイズを彷彿させるようなアッパーである。

            どこかで懐かしくもあり、切なさも滲ませる歌詞はスッーと耳に届く。

            この曲が収められている「ALOOOOHANA!!」を全編通して聴けば、暑さ厳しい我が書斎も常夏のビーチへと早変わり。

            リピートで繰り返して聴きながら、夏を感じている。

             

            もう一度 Kiss Me Baby・・・

             

             


            第157回芥川賞受賞作 影裏

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              第157回芥川賞受賞作「影裏」(文藝春秋)を読み終えた。

              沼田真佑という新人の書いた処女作である。

              この作品は同時に文學界新人賞も受賞しており、いま注目を集めている作家である。

              読んでまず感じたのは、端正な筆致であるということである。

              言葉への感度の高さがうかがえた。また、北緯39度 岩手の生出川での釣りの場面もとても印象的であり、樹木と川と魚の描写が強い彩を放っている。

              3.11=東日本大震災を契機にして、たったひとりの友人 日浅のもうひとつの顔が立ち現れる終盤はまるでミステリーを読んでいるかのような深みと魅力を感じた。

              津波にのまれた日浅のために行方不明の捜索願を出すべきと強く迫る主人公に、父親が投げつけた言葉の重み。

              「信じる者を裏切った、そんな不実な人間が呑気に釣り糸を垂れなどをしておって津波にのまれたからといって何だというんです?」

               

              電光影裏に春風を斬る。不意に蔑むように冷たい白目を向ける端正な楷書の七文字が、何か非常に狭量な生臭いものに感じられた。

               

              ページを閉じた今でも、日浅の別の顔に秘められた思いについての想像を強く喚起する佳作である。

               


              オールスターキャスト 天使と罪の街

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                マイクル・コナリーの「天使と罪の街」(講談社文庫)を読んでいる。

                上下巻合わせておよそ700ページであるが、ストーリーテラーの達人の手にかかれば、あっという間に残り70ページである。

                ハリーボッシュシリーズであるが、この作品ではあの「わが心臓の痛み」のテリー・マッケイレブ、そして私が今までに読んだ全ての本の登場人物の女性の中で一番恋い焦がれたFBI捜査官 レイチェル・ウォリングが登場という、主役を張れる3人の揃い踏みなのである。

                映画ではオールスターキャストといえば、大抵はそれぞれのスターの持ち味を生かすところまで至らずお披露目程度で終わり、作品の質としては凡作ということが多い。

                しかし、さすがはコナリーである。

                3人の繋がりを見事に描いており、それぞれの人物の魅力をあますところなく伝えることに成功している。

                しかも、殺人事件の連続犯があの「ポエット」という、ミステリー史上にも永遠に名を留める凶悪犯であり、その対決までの流れはまさにスリリングである。

                個人的に強く心に残ったのは、ハリー・ボッシュが再びロサンジェルス市警に戻ることを決意し、妻や娘に別れの挨拶に訪れるシーンである。

                娘であるマディの絵には、銃を持った男が、悪鬼のデーモンと闘う場面が描かれている。

                銃を持った男こそ、父親であるボッシュ。その絵をほしいと娘に申し出る場面。

                「この絵がとても綺麗なので、ずっと持っていたいんだよ。パパはしばらく遠くへ行かないといけないので、いつでもこれを見ていられるようにしたいんだ。この絵があれば、いつでもお前のことを思い出せる。」

                「どこへ行っちゃうの?」

                「天使の街と呼ばれている場所に戻るんだ。」

                 

                その後、成長したマディが大きな危機に陥るのが「ナイン・ドラゴンズ」であり、ハリーボッシュのハリウッド映画張りのアクションについては以前のブログでも触れた。

                つまり、この「天使と罪の街」には群れない一匹狼であるボッシュに大きな影響を及ぼす親子や夫婦の繋がりまでも描かれているという何とも贅沢な内容になっているのである。

                 

                さあ、残り70ページ。「ポエット」との対決シーンが待つている。

                至福の読書体験をじっくり味わいたい。

                 


                動画で堪能 バーンスタインの指揮

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                  JUGEMテーマ:音楽

                  クラシック音楽を堪能するためにはCDを聴くだけでなく、動画を見ることでその感動が飛躍的に増すことを痛感した。

                  今、心を奪われているのがレナード・バーンスタイン指揮によるウィーンフィルの演奏である。

                  特にシューマンの交響曲4番は素晴らしい。

                  バーンスタインはよくカラヤンと対比されることが多い。その情感豊かな指揮ぶりは時にユーモアすら感じさせる一方で、4楽章のフィナーレにおいては躍動感がほとばしるほどで、見ているこちらの体まで動き始める感じである。

                  まるで舞台上で役者が演技しているような雰囲気を醸し出している。

                  また、若かりし頃のLPOを指揮したショスタコービッチの交響曲5番のグイグイ引っ張るような演奏もいい。

                  それから、自らがピアノを弾いているガーシュインのラプソディ・イン・ブルー。

                  こんなに上手だったのかと唸らされる見事な演奏である。

                  動画の良さは、演奏者の表情やそれぞれの楽器を奏でる際の細やかな指遣いもつぶさに見れるところにある。

                  また楽器それぞれの音色も楽しめる。

                  クラシックの愉しみ方が一つ増えた。

                   


                  ナイン・ドラゴンズ

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                    JUGEMテーマ:読書

                    久々の海外ミステリーである。

                    マイクル・コナリーの長編「ナイン・ドラゴンズ」である。

                    あとがきに、著者自身の創作動機を語る文章があるのでそのまま紹介したい。

                     

                    物語はロスアンジェルスで始まり、香港に行き、またロサンジェルスに戻ってくる。

                    ハリーと彼の娘の物語である。

                    娘へのハリーの様々な願いを描いた物語であり、父親としての至らなさに対する疚しさを描いた物語であり、そして何よりも父親としての脆弱性を描いた物語である。

                     

                    マイクル・コナリーの長編シリーズの中でも、ひときわ輝く魅力を放っているハリー・ボッシュシリーズ。

                    その最大の魅力は何といっても主人公のロス市警殺人事件特捜班の刑事 ハリー・ボッシュの人物造形にある。

                    犯罪を憎み、決して妥協を許すことなく恐るべき犯人を追い詰めていくその強靭な精神力と行動力に惹きつけられるのである。

                    妥協を許さない背景には徹底した孤独を背負い、誰とも群れない屹然とした人間としての孤高の姿が感じられる。

                    誰にも影響されない男。

                    そのボッシュが弱さを見せる。娘であるマデリンと向き合った時こそがその時である。

                    本作はその娘に魔の手が迫る。しかも、ロスではなく香港と異国の地で。

                    冷静沈着なイメージとはかけ離れ、直情径行に行動するボッシュの姿にはらはらしながら、娘の救出までの展開はまさにハリウッドのアクション映画並み。そういう意味でもシリーズの中での異色作とも言えるだろう。

                    そして、最大の試練とも言える不幸がボッシュを襲う。

                    結末も流石はコナリー。そうきたかと唸らされた。

                    シリーズの中では平凡作であると思うが、読ませる作品であることには違いはない。


                    虎の咆哮 中島敦「山月記伝説」の真実

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                      JUGEMテーマ:読書

                      7月に読んだもう一冊の新書についても触れたい。

                      「中島敦「山月記伝説」の真実」(文藝春秋)である。

                      今年に入り、久々に中島敦の作品を読んだ。

                      特別なきっかけがあったわけではなく、書店で「懐かしいタイトルだなあ。」と思い手に取ったのが「山月記・李陵」であった。

                      漢詩の素養のある中島敦だけに書き出しは難解な語句が多いのであるが、読み始めると止まらない魅力を秘めているのが「山月記」である。

                      その「山月記」の誕生から今や高校の教科書の定番になる迄の経緯について、中島敦を取り巻いた人々との関わりを軸に纏められている。書評を読むと作家についての評伝としては内容が浅いという指摘もあるが、自分は興味深く読むことができた。

                       

                      第二章の虎の咆哮が強く心に残った。

                      中島敦は天才であるが、心に巣食う狂気にも気づいていた。

                      そして、その狂気は「短歌」に表れている。

                       

                      ある時はゴッホならねど人の耳を喰いてちぎりて狂はんとせし

                      モディリアニの裸婦赤々と寝そべりて六月の午後を狂ほしく迫る  「赤と白と青と黄の歌」

                       

                      山月記の中で、虎が人を食う場面の直接的な描写はなく、兎に変えているのは、理性を忘れて人間を食いちぎりたいという自分の暗い衝動から目をそらしたかったのであろう。(上記 本P44)

                       

                      耳のないゴッホの自画像も、モディリアニの描いた裸婦の肖像も、どちらも狂気を秘めている点において、中島敦自身の「自画像」とも言える。

                      その狂気を感じながら、中島敦は「山月記」を書いた。

                      山月記の詩人の心に巣食う「虎」=中島敦の内面の狂気=尊大な羞恥心と自尊心

                      乗り越えようとして足掻くも、見上げれば「月」。

                      高く聳える山の遥か彼方に「月」。

                      理想を追い求めても、追い求めても届かないことへの恐れと嘆き。それが「山月記」最後の場面の虎の咆哮である。

                      紛れもない中島敦自身の咆哮である。

                       


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