日曜日の正しい過ごし方である「図書館」での読書三昧もすっかり定着した。
今日も2冊読破した。
西加奈子の「地下の鳩」と「こうふく あかの」である。
どちらも味わい深い佳品である。まずは「地下の鳩」について。
「地下の鳩」という単行本にはタイトル作と並んで集録されている「タイムカプセル」とが密接に関連している構成になっている。
主人公は大阪・あべのの夜の世界で生きる人間たちである。
中学の教師に無理やり犯される形で性体験をしたことで、自分の意思が体から離れていく感覚を覚え、「自分は汚れている」というねじれた安心感をもつ女 みさを。
そのみさをに惚れ、たった一度の性交で自分の毎日の糞のような仕事に見切りをつけたいという過去の自分勝手な自尊心が際限なく溢れ出る吉田。
暗い過去をもつ二人がおそれを抱きながら近づき、関係を少しずつ深めていく描き方が実にうまい。
吉田は、みさをの手を握り返した。強く、握り返してみた。左目だけのみさをは、笑っていたが泣いているような顔をしている。
そして、吉田にも、それは唐突に訪れた。この女を、自分のものにしたい。そう思った。
みさをの過去の男たちを、片っ端から消し去りたい。みさをを、そういう場所から、遠く離れたところに、連れていきたい。
それは、香港でも、台湾でもなかった。吉田は、手に力をこめた。みさをの手はますます白くなったが、構わない。
飛行機は、静かだ。落ちない。
そして、その二人の関係が展開していく中で大きな事件が起きる。
おかまバーのママ「ミィミィ」の沖縄でのいじめ体験から湧き上がる壮絶なトラウマともいえる悪夢が蘇るのである。
この「タイムカプセル」は終盤にかけて、とてもサスペンスフルな展開で、ドキドキしながらページを繰っていった。
そして、最後、悪夢の地ふるさとの沖縄でミィミィがアイスピックを突き立てたのは・・・
あの頃の自分は死んでいたと思っていた。心を殺して、嘘をつき続けていたと。だが、死んでいたのではない。生きてはいなかったかもしれないが、死んではいなかった。何故なら自分はここまで、生きてきたのだ。全力で、正直に嘘をつき、ここまで生き延びてきたのだ。
220ページの本であるが、その内容の濃密さに圧倒される。そして、読書の喜びに包まれる。
苦しみの中からほのかに見える灯。それが本当の希望であろう。
素晴らしい一冊である。