JUGEMテーマ:読書
本好きを自認する自分にとっての今年一番の収穫は「西村賢太」との出会いである。
私小説は基本的にはあまり読まないのであるが、西村賢太の小説のもつむき出しの熱量に圧倒されてしまった。
昨日、今日とで立て続けに2冊を読了した。
「やまいだれの歌」と「蠕動で渡れ、汚泥の川を」である。
北町貫太、17歳から20歳までの行状記である。
孤狼気取りでスタイリスト。しかし、見掛け倒しで小心者。
働くことが嫌いで、コンプレックスの塊。
日払い労働で稼いだお金は、その日の内に酒代で消える自堕落な生活。
家賃滞納を繰り返し、挙句のはてに踏み倒しては夜逃げ同然で彷徨を続ける日々。
そして、冷酒が入れば、必ず職場において暴言・悪態の数々。
自己嫌悪にさいなまれながら生きる姿が痛々しく、そして切なさすら感じる。
この2作は西村賢太の長編小説といわれる2作であり、代表作であると思う。
貫太の行動は、幼稚かつ短絡であり、10代にして踏み外れた人生の軌道を何とかして修正しようともがくさまな無様ではあるものの、希望を決して失わない姿を応援したくもなる。
思えば、自分自身も貫太に似ている部分がたくさんある。
貫太ほどではないが、激すれば怒りをぶちまけてきた経験もあるし、深い自己嫌悪に苛まれたこともある。
上司にこびへつらうこともできず、下衆な気持ちを抱きながら超然と孤狼を気取ってみたことも・・・
あまりに人間的すぎる貫太は社会にうまく順応できぬ存在ではあるが、あながちそれは悪いことばかりでもないだろう。
学歴社会の落伍者であっても、人生の落伍者にはなっていないという貫太の気概に共感している自分がいる。
私小説は基本的に自爆小説であると誰かが言っていたが、西村賢太が描く北町貫太の物語は暗いだけではなく、すべての陰湿なものをも吹き飛ばすほどの力を秘めている。自分が心惹かれる理由はそこにある。