愛の崩壊と再生の物語

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    このところ、久しぶりに以前好きだった外国の作家の本に親しむ機会が続いている。
    この週末はトマス・H・クックの「サンドリーヌ裁判」を貪るように読んだ。
    帯には渾身のサスペンスとあるが、私はクックならではの夫婦という愛の形の崩壊と再生を描いた人間ドラマであると感じた。
    法廷での10日間にわたる証人の証言がこの作品の核をなしている。真相は果たして何かを考えながら読み進めていくうちに、気づくともう終盤である。さすがはクックの筆力である。
    そして、最後の証人の口から明かされるサンドリーヌが企てた驚愕の真実。唸ってしまった。
    アントニオ・マンチーニの絵画「休息」が大きな鍵を握っている。そして、最終ページ。大きな救いが待っている。
    重い内容ではあるが読後感は悪くはない。サミュエルが失ったものは、現代人なら等しく抱える問題ではないのか。

    無限成長美術館

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      JUGEMテーマ:日記・一般
      心の聖地である上野の国立西洋美術館が世界遺産に登録される見込みとなった。
      素直に嬉しい気持ちである。
      近代建築の大建築家であるフランスのル・コルビジュエが日本で建築した唯一の建造物である。
      コルビジュエの発想は「無限成長美術館」である。
      展示物が増えた場合は螺旋状に増築していくといった考えである。
      結局螺旋状に増築されることはなかったものの、その考え方は大胆にして緻密である。
      私が一番気に入っている場所は2階をぐるっと見学して1階に下りた場所にある近代彫刻を展示してある空間である。そこから本館を見渡した時の中庭の風情は格別である。
      特に雨の日がいい。
      雨は生来嫌いなのであるが、この空間だけは雨の方が断然いい。けやきの大木をはじめとする木々の緑が濃さを増し、心を優しく包んでくれる。そなえられた大きめの木のベンチとブロンズの彫刻、そして窓外の緑。
      見事な配置である。
      いつまでも座っていたくなる。先日訪れたカラバッジョ展でも最後はこの空間でひとり静かに佇んでいた・・・
      心が洗われる瞬間であった。

      横浜西口 居酒屋「ロックウェルズ」

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        今春、勤務先を異動したばかりである。
        年齢的にも管理職以外では一番年長に近くなってしまった。
        そうなると、大勢で飲むのは疲れる。静かにグラスを傾ける方が落ち着くのである。
        そんなオアシスのような場所に巡り合うことができた。
        横浜の西口、鶴屋町にある居酒屋「ロックウェルズ」である。
        料理の温かさに加え、働いている人の人間味、カウンターに並ぶ常連さんの人柄。
        どれをとっても秀逸である。
        仕事の同僚と飲むと愚痴やぼやきが多くなるが、全く違う業種なので、自分の中のスイッチが切り替わって、ストレスを発散することができる。こういう店を一軒知っているだけで、人生の彩りはより増すのだと感じている。


         

        警察小説の白眉 マルティン・ベックシリーズ

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          JUGEMテーマ:読書
          久々のブログ更新である。忙しさを言い訳にしたくはないのだが、ブログを投稿する気力までには至らなかった。
          さて、前回は海外の一押しのミステリー作品として「ミスティック・リバー」をあげたのだが、人生において海外で一番読んだ作家はエド・マクベインである。警察小説の金字塔「87分署シリーズ」の巨匠である。
          日本の刑事ドラマの代表作とも言える「太陽にほえろ」や「踊る大捜査線」にも大きな影響を果たしている。
          その「87分署シリーズ」に負けず劣らず好きなのがスウェーデンの「マルティン・ベックシリーズ」である。
          マイ・シューバル、ペール・ヴァールー共著の傑作である。
          久しく読んでいなかったのであるが、たまたま図書館で第8作に当たる「密室」を見つけ、歓喜して読みふけってしまった。
          いや、面白い。
          代表作は「笑う警官」が有名であるが、個人的にはそれをも上回る内容であると思う。
          プロットの立て方が絶妙である。
          この結末は警察小説においては衝撃的であろう。

          囚人は今、暗闇の中にじっと横たわっていた。眠れぬままに、彼は考えていた。
          いったい、どうしてこういうことになったのだろう。どういうわけで。
          誰か知っているものがいるはずだ。としたら、誰が?


          派手さはないが深い余韻が心にずしりと響く。
          名作とはそういうものであろう。
           

          シャッター・アイランド 衝撃の結末とはこのことだ!

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            今までの人生の中で数多読んできた外国のミステリー。
            その中から一冊を選べといわれたら、多分「ミスティックリバー」を選ぶと思う。
            デニス・ルヘインの大傑作である。
            静かで豊かな語り口の中に、人間の痛切な悲しみを描き切った作品である。
            読後感がことさらいいわけではなく、読み手の心にやりきれなさという余韻がいつまでも残るのであるが、だからこそミステリーという狭い枠組みを超えた「人間小説」になっているのだと思う。
            そのルヘインの異色作「シャッター・アイランド」を図書館で一気に読んだ。
            ルヘイン自身、「シャッター・アイランドに関しては悪評を期待している」とパブリッシャーズ・ウィークリーのインタビューでも答えている。
            一種の読者への挑戦とも挑発ともとれる作品である。
            しかし、流石はルヘイン。保安官を軸にした捜査やトリック崩しという犯罪小説と見せかけておきながら、実は驚天動地の結末に読者を導いていく。まさにこの結末こそ、衝撃の結末という言葉がぴったりあてはまる小説である。
            オセロでいえば、最後の一手ですべての色が一気に変わるといったらいいだろうか。
            私はページを捲る手を本当に止めることができなかった。
            そして見事なのは、どんでん返しそのものにあるのではなく、いつものルヘインの作品に流れている悲しいほどの愛が描かれているということである。
            ここが凡百の作家との違いであろう。
            悲劇が悲劇になりうるのは人間の業としての「愛」が横たわっているか否かにかかっている。
            その「愛」が深ければ深いほど悲劇は増幅していくのである。事件の闇は深くなる。
            ルヘインがアウトラインを初めて決めて書いた作品というだけのことはある。
            実に完成度の高い、良質のミステリー。大好きな一冊がまたここに登場した。

            辺見庸の言葉 「眼の探索」

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              JUGEMテーマ:読書
              新ガイドラインとその関連法案の内容は「憲法の法体系との決定的乖離をもたらすばかりではなく、安保条約本文からさえ想定できない軍事行動を容認している点でも、下位法が上位法を骨抜きにする 法の下剋上の痕跡を歴然と示している」という。
              これは今からおよそ20年前に刊行された辺見庸の「眼の探索」(朝日新聞社)の中の一文である。「  」の言葉は評論家の前田哲男氏の世界誌上での言葉を引用したものである。

              なにやら今のこととして置き換えてもそのままあてはまる言葉ではないか。20年前は周辺事態法であり今は安保法制関連法案である。
              まさに法の下剋上は進行している。平和憲法が嘘と詭弁で食い物にされている。
              20年前よりも強権的な政権運営。しかも日々たれ流れるどうでもいいような芸能人の不倫や野球選手の覚醒剤騒動、賭博問題ばかりにメディアは紙面や時間を割き、肝心な問題は放っておかれる。
              主客転倒がまかり通っている。それを辺見庸は「テーマの下剋上」と名付けた。

              「はっきりしているのは今日の危うい風景が、激しい議論の末に立ち現れたのではないこと。黙ってずるずると受け入れてしまったのだ。」

              この言葉がずっと心に突き刺さったままだ・・・

              生命力のある音楽 バーンスタインの指揮

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                JUGEMテーマ:音楽
                レナード・バーンスタインの指揮が好きだ。
                特に気に入っているのがショスタコーヴィチの交響曲5番、俗に言われるところの「革命」である。
                古今東西、この著名な交響曲には名盤が数多く存在する。
                圧倒的な存在感をしめしているのはやはりセルゲイ・ムラヴィンスキーだろう。
                しかし、バーンスタインの1959年のボストンでの演奏にはかなわない。
                特に4楽章の推進力はすさまじいの一言に尽きる。8分台で駆け抜ける演奏はほとんどない。
                闇雲に速いだけではない。そこは、きちんと計算されている。うねりのようなドライブ感が心地よい。
                1978年の東京ライブも素晴らしいが、やはり1959年のボストンが個人的には一番好きである。
                ニューヨーク・フィルの演奏もバーンスタインの指揮に見事に応えている。
                私の知人はその4楽章を「ロック」と称した。
                まさに聴いている人間の気持ちを高揚させてやまないエネルギーが横溢している。
                今日は、バーンスタインのプロコフィエフの交響曲5番を楽しんだ。
                1979年のミュンヘンでのライブ録音である。
                スタジオよりも音の生命力=生々しい質感を好んだバーンスタインのライブ録音のこれまた傑作である。
                クラシック音楽の愉悦がここにある。

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