JUGEMテーマ:読書
村上春樹の最新刊「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文芸春秋)を読み終えた。紀行文集である。
私は村上春樹の紀行文が好きである。
一番好きなのは「遠い太鼓」それから「辺境・近境」もいい。
村上春樹の紀行文の魅力はその文体から立ち上ってくる空気感である。
食事やレストランの紹介にしてもあくまでもパーソナルな味覚に基づいているものであり、料理評論家が語るような妙に大げさで肩肘張ったものでないところに親しみがもてる。
最新刊の中での個人的に一番興味深かったのは、「懐かしいふたつの島で」である。
二つの島とはギリシャのミコノス島とスペッツェス島である。
ギリシャでの生活については「遠い太鼓」に多く記されており、長い年月を経ての続編ともいえるものである。
村上春樹自身、そこまで大げさではないにしろといいながら「巡礼」という言葉を使っている。
ミコノス島は「ノルウェイの森」の執筆を開始した場所である。
日本で仕事をするのに疲れ果てて、外国に腰をおろして集中して執筆活動に取り掛かろうと決めた初めての土地がこのギリシャの島であったのだ。
24年間の月日の流れの中で変わったものと変わらぬものが描かれている。
灯台のまわりの風景は記憶の通りだ。白い灯台を囲む緑の松林。その間を抜ける未舗装道路。目を凝らすと沖合を様々な形の船が横切っていくのが見える。漁船やヨット、フェリー。そこには遠くに暮らす人々の営みがある。空はうっすらと切れ目なく灰色に曇り、海面にはたくさんの白い泡が立っている。レイモンド・チャンドラーはどこかで「灯台のように孤独だ。」という文章を書いていたが、この灯台はそれほど孤独には見えない。でも見るからに静かだ。灯台のように寡黙。