リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタルト・ヴァイブレーション

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    JUGEMテーマ:読書
    今年一番読んだ作家は村上龍である。
    まさしく数えきれないくらい読んだ。長編、短編、連作、エッセイ。ありとあらゆる種類の著作をである。
    おもしろかった。以前にも記したが、村上龍はきっと好悪のはっきり分かれる作家であろう。
    たとえば、代表作である「トパーズ」でのSMクラブでの性描写に辟易とさせられる人もいるだろうし、「ストレンジデイズ」のなんだか釈然としないもやもや感が残る展開に苛立つ人もいるだろう。
    私は、それらすべてが好きである。
    感性を直截的に刺激するからである。薬は経験したことはないが、きっとこういう感覚なんだろうなということを想像させられる作家である。描く世界の中にほうりこまれ、厭がおうにでもその世界につかっているうちに感覚が麻痺してしまうのだ。それは決して不快ではない。

    そんな中、一番心に残ったのは村上龍の1980年代の短編集「ニューヨーク・シティ・マラソン」(集英社文庫)である。
    世の中にあるすべての短編集の中での、自分の一番のお気に入りである。
    その一編。「リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタルト・ヴァイブレーション」がずっと心に突き刺さっている。
    主人公はけがをして再起不能になったF1レーサーのニキ。
    リオで静養をしながら女性との快楽だけが中心の怠惰な生活を送っている。大けがのために損傷を受けた脳には穴があけられ、崩れそうになる脳を金属片で補強している。
    その脳に膿がたまりテニスボール大に腫れていく痛みの中で、リオのカーニバルの熱狂が彼を包む・・・
    一体彼の身に何が起こるのか?

    ニキは自分だと思った。だから、心に突き刺さったままなのだ。
    自分もその時期、頭の中に巨大な膿をかかえていた。それはあくまでも比喩であるけれど。
    この話の結末は好きだ。膿を抱えている状態であっても「ハップ」だったといえるかどうかである。人生なんて。

    ミネット・ウォルターズの凄味

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      今年は思いのほか、ミステリーを読む機会が減ってしまった。
      その中でも、上質の傑作ミステリーに出会えた。
      ミネット・ウォルターズの中編集「養鶏場の殺人/火口箱」(創元推理文庫)である。
      ウォルターズといえば、現代英国ミステリの女王である。最近のウォルターズの凄味は、派手さはないが、犯罪の背景にある人間の心に潜む偏見や差別という意識にまで目を向けて、人間のもつ根源的な悪意に迫る作品が多いということであろう。
      この中編もそうである。
      「養鶏場の殺人」は実際の犯罪をもとにしながら、真実はどこにあったのかとウォルターズなりの解釈を提示している作品である。一見、奇妙に見える被疑者の供述の中にこそ、真実があったのではないかというその提示は大きな説得力をもって胸に迫る。
      「火口箱」は地域社会の中に根をはる偏見という社会的な問題と謎解きをミックスさせた本格的な傑作である。
      中編と侮るなかれ。その見事な筆さばきにうならされること間違いない。

      間違いなく2014年のベストミステリーの一冊である。
       

      1年の沈黙を破る・・・。2014年最高の一冊。「アイネクライネナハトムジーク」

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        こうして再び記事を書こうという気持ちになるまでに1年がかかった。
        ジャスト1年である。精神的に参っていた。その理由についてはくどくど書くつもりはない。
        またブログ再開である。その事に意味があるのだから。
        知人にもほとんどこのブログの存在は教えていないなか、唯一、後輩のひとりから「ブログ再開しないんですか?」という質問を受けていた。全く記事を更新しない中、今月にも100アクセスを超える日があり正直驚いたと同時に素直に嬉しかった。
        自分が好き勝手にアウトプットした本や音楽などの情報をキャッチしてくれる人がいるという事実は大きな再開のきっかけとなった。
        沈黙を続けている間にも、多くの本を読んでいた。心に滋養を与えることは怠らなかった。
        今年、読んだ本の中でのNO.1は伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎)である。「首折り男のための協奏曲」(新潮社)のほうが、らしさという点では分があると思うが、あえて「アイネ・・・」のほうを選んだ。
        伊坂らしい、いくつかの話が密接にかかわりながら重なり合って展開する内容になっているが、泥棒や超能力、殺人の出てこない、全く伊坂らしくないヒーローものである。だからこそ、選んだ。

        終盤のボクシングの10Rのシーン。ラウンドボーイの登場のシーン。「ボードから右手を離す。そして、その右手で、自らの左肩を叩き、それから右肩を叩いた。小野は顔を起こした。あ、と心の中で声を上げている。」
        鳥肌が立った。
        そして、最後の最後の場面。さすがは伊坂幸太郎である。最高の読後感である。

        今年があまりよい年でなかった人やいま辛いことを抱え込んでいる人にこそ読んでほしい。人生は捨てたもんじゃない。小説からでさえこんなに力をもらえるのだ。
        私ももらった。ぜひ、あなたにも。

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