純粋な愛=狂気 そして唯一の真実

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    JUGEMテーマ:読書
    一押しの作家 中村文則「遮光」「迷宮」を一気に読んだ。

    「遮光」はデビューして2作目の作品である。

    恋人が死んだ事実を受け入れられずに、死体安置室で縫合されていた糸を焼き切って小指を持ち歩く主人公。
    周囲には、死んでいることをひた隠しにし、虚言を繰り返す。

    そして、自分でも何が真実なのかが分からなくなる。

    狂気に突き進むことで、恋人と一体になれると信じ込む主人公が最後にとった暴力の衝動。

    すさまじい暴力のシーンには思わず息を止めてしまっていた。

    ふと、重松清の「疾走」での暴力シーンを思い出した。

    純粋な愛は狂気と等しく、唯一の真実である。
    そんなことを感じた。

    今でも主人公の姿が心に強く覆いかぶさっている。

    比類なき強烈な恋愛小説である。
     

    はだしのゲン 自由閲覧制限問題

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      JUGEMテーマ:ニュース
      昨年12月に亡くなった漫画家の中沢啓治(なかざわけいじ)さんに、あるとき手紙が届いた。『はだしのゲン』を読んだ小学生の母親からだった。息子がトイレに一人で行けなくなった、と。中沢さんの書いた返事がいい▼「息子さんは、すばらしい感受性の持ち主です。ほめてやってください」。昨夏、本紙のインタビューで語った話だ。代表作で描いた原爆の悲惨さが児童に伝わったと知って、うれしくなったのだろう▼ゲンは中沢さん自身の被爆体験をもとにしているが、広島で当時、実際に目の当たりにした光景は、作品での表現よりはるかに酷(むご)いものだった。絵は子ども向けに抑えて描いたという。それでも時に「残酷すぎる」と言われたと述懐している▼この海外にも知られた名作を、子どもたちが自由に読むことができなくなった。松江市内の市立小中学校の図書館でのことである。旧日本軍がアジアの人々の首を切り落としたりする場面があり、暴力描写が過激だと市教委が判断したという▼市議会への陳情が発端らしい。ゲンが「間違った歴史認識」を子どもに植え付けるから、撤去すべしという内容だった。さすがにそこまではしなかったが、最近まで好きに触れることのできたものがなぜ突如、駄目となるのか。解せない話だ▼地獄図のような場面を見れば、だれしも恐怖を感じ、戦慄(せんりつ)を覚える。しかし、そんな経験から戦争の恐ろしさ、罪深さを思い知る。子どもの感じる力や考える力を、中沢さんのようにもっと信じてはどうか。 

      今日の「天声人語」である。

      私は憤りを感じている。
      問題が起きた松江は大学時代の4年間をすごした心のふるさとであるからだ。

      暴力描写が過激だから自由な閲覧ができないとなれば、さきの戦争で侵略行為を行った我が国の非人道的な行為そのものを知らせようとしないということと同義であり、戦争の実相を知る権利を奪うという愚挙である。

      間違った歴史認識を与えるとして本そのものの撤去を要求した側とは、南京での虐殺の事実を被害者の数が曖昧であるからなかったことにすりかえようとする、似非愛国の歴史観をもった一部の人間である。その偏った考えが正しいといえないことは自明の理である。

      中国や韓国との歴史認識の違いが外交の大きな溝となっている現在、もっと端的にいえば、アジアの人々に対して行った我が国の加害としての戦争責任が問われ続けているわけである。

      終戦から68年経過し、戦争そのものを語り継いでいく人々の高齢化による激減が問題になっているいまだからこそ、はだしのゲンのようなすぐれた原爆戦争文学を若い世代が自ら読み継いでいく風土を形成しなければならないのであろう。そんなときに、あたかもその流れに竿をさし、戦争の実相に蓋をし、都合の悪い部分は風化させていこうという松江市教委の措置に素朴な怒りをおぼえる。 

      閲覧を制限することで、逆に純粋な感受性の芽はもっと戦争や原爆にについて学びたいという方向に伸びていくものと信じる。

      事実を知ろうとする権利を制限するなど基本的人権への冒涜である。

      ベートーヴェンの至宝

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        JUGEMテーマ:音楽
        私の愛していた女性はモーツァルトの「グラン パルティータ」のメロディーが大好きと話してくれた。

        私が一番好きな作曲家はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンである。

        先日、川崎のタワーレコードでオットー・クレンペラー指揮ベートーヴェンの交響曲&序曲全集、CD10枚セットを購入した。

        毎日、そればかりを聴いている。

        クレンペラーの指揮は堅牢という表現がぴったりで、メロディーに流されない、テンポを決して緩めない骨格のしっかりした音を刻んでくれる。
        べートーヴェンの口を真一文字に結んだ肖像画のイメージに近い音像である。

        この記事を書いているバックでも序曲が流れている。

        とにかく有無を言わせない素晴らしさである。
        ベートーヴェン万歳と叫びたい思いにかられる。

        音楽史を語るうえでの不滅の曲ばかりである。
        まさに至宝。

        陶然とした気持ちで、ただただその音に身を委ねるのみだ。

        「エグモント」の女性のソプラノの声が、身体を浄化していく・・・ 

        骨太の医療ミステリー 切り裂きジャックの告白

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          JUGEMテーマ:読書

          中山七理の長編ミステリー「切り裂きジャックの告白」を読了した。
          先日紹介した「七色の毒」で活躍した警部 犬養隼人の初登場の物語である。

          脳死判定をめぐる臓器移植の問題に真っ向から刃を向けた骨太の医療ミステリーである。

          私自身も臓器移植のドナー登録をしている身であるので、考えさせられながら一気に読んだ。

          社会的な問題に目を向けたミステリーは久しぶりであったので、楽しめた。

          はじめはサイコパスによる劇場型の猟奇犯罪と思わせておいての、驚愕の真実があぶりだされていく展開にはっとさせられた。
          そして、今回も、やはりどんでん返しの切れ味は冴えている。

          あざとさのない最後のひねり。「まいった。」という感じであった。

          犬養隼人を主人公にしたシリーズを期待したいものである。

          読書の夏はまだ終わらない。
           

          終戦記念日に想う 

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            JUGEMテーマ:日記・一般
            68回目の終戦記念日。
            朝のテレビ朝日のワイドショーで「戦後は本当に終わったのか」をテーマに、各界の人物にインタビューした内容を放送していた。

            印象的だったのは右翼の論客である鈴木邦男氏の言葉である。

            「戦後どころか戦前のきな臭いにおいがする。」「右傾化ではなくで、ただの逆戻り」
            「三島由紀夫の唱えていた国防軍とは似て非なるものであり、アメリカに追随、従属する傭兵と同義」

            まさにその通りであると思う。

            自民党が提案している内容とは、鈴木氏の言うように、集団的自衛権の名のもとにアメリカとともに戦争の出来る国になるための国防軍であり、憲法改正すら自主憲法どころか、さらにアメリカの立場を忖度し、従属していくいびつな内容である。

            しかし、みんなの党の小沢一郎代表も述べていたが、アメリカに従っていれば楽という意識は政治家だけにあるのではなく、そういう政党を支持する多くの国民の意識があってこそという意見にもうなずいてしまった。

            だから、沖縄の基地問題はいつまでたっても他人事であるし、日米地位協定を改定できないのではなく、改定しようとしていないのは日本人の意識そのものなのであろう。

            在日米軍の役割についてのアンケート調査では、日本人の7割は有事の際にアメリカが日本を守ってくれるというものだが、同じ質問をアメリカ人になげかければ、9割がアジアにおけるアメリカの覇権主義=国益のためという答えが返ってくるという興味深い結果も紹介していた。

            あきれるほどの日本人の能天気ぶりである。

            アメリカに依存していれば何とかなる、いざという時にはアメリカが何とかしてくれるなどいう甘えた考えを国民一人一人が見直していかなければ、戦後はいつまでも続くであろうし、主権独立などは空論である。 

            開国以降、日本は不平等条約の改定に向けて、政治家は命を削ってきた。
            陸奥宗光や小村寿太郎がいまの日本を見たら、なんと思うのであろうか?

            日本にアメリカの基地があることを当たり前だと思っているところからすでに戦争を知らない、私たち以降の世代の思考停止が始まっている。

            「在日米軍基地は違憲である。」という砂川事件での東京地裁の伊達判決に見られるように、誠の意思をもった裁判長もいた。
            一方、アメリカ国務省からの圧力でその判決を高度の政治性などという腑抜けた言葉で放棄し、日本を売った、時の最高裁の判事もいる。

            どちらの側につくのか。私たちはいまその刃をつきつけられているのだと思う。

            ジャンヌ・サマリーの肖像

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              JUGEMテーマ:日記・一般
              先日 何年かぶりに横浜美術館に行った。
              プーシキン美術館展である。
              お目当ては、日本初公開となるルノアールの
              「ジャンヌ・サマリーの肖像」である。

              決して大きな絵ではないが、やはり存在感は抜群であった。
              絵が私を呼んでいるのである。
              「見て。」と・・・
              多くの来場者の網の目を縫うように、間近でしばし絵を見つめていた。

              よく見てみると、モデルのドレスの青色に呼応するように、胸元や頬に青色を施していることが分かる。ゆえに、その上にぬられたピンクが映え、立体感を醸し出しているのである。

              写真技術が進歩したとはいえ、本物を見ないと伝わってこない質感がある。

              背景の羽のような寒色も肖像画をぐっと引き立てている。

              鮮やかな趣向である。

              ルノワールの肖像画の中でも最高傑作のひとつという触れ込みもうなずける。

              久々に絵を見て心がときめいた。

              ジャンヌ・サマリーに恋をしてしまった。
               

              内面を剃刀のごとく抉る小説

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                JUGEMテーマ:読書
                いま、注目している作家は中村文則である。
                「悪意の手記」(新潮文庫)を読了した。

                厚くはないのだが、題材は重いので、すらすら読めるという作品ではない。

                生存率の極めて低い難病を患った主人公。現実の生活は虚無であると決めつけ、希望につながるものはすべて捨て去った。しかし、運命はいたずらに、彼に生を与える。感じたことは喜びではなく、いつ発症するのかにおびえる虚無の日々。その虚無を突き破るものとして、殺人という道徳的かつ倫理的に受け入れられない行為の中にこそ、生きることの刺激を見つけ、生きることを実感してしまった。

                しかし、待ち受けるものは?

                罪に相当する罰はないという語りが強く心に響いた。

                罰が心を責め苛むのではなく、人を殺めてしまったというとりかえしのつかない行為に対する負い目、いいかえれば決して正当化することなどできない罪悪感こそが、蜘蛛の糸のように心に巣食い続けるという果てなき迷宮こそが現実の世界であることを伝えていたような気がする。

                ひりひりするような剃刀の肌触りのする筆致である。

                天才 芥川龍之介の再来ではないかと個人的には大いに期待している。



                七色の毒

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                  著者自身が現時点での最高傑作であると語っている・・・
                  音楽ミステリーシリーズが好評の中山七理の最新作「七色の毒」を読んだ。

                  小気味よいミステリー連作集である。

                  中山七理お得意のどんでん返しもさえている。

                  怖かったのは「黒いハト」「黄色いリボン」である。

                  人間の心に潜む悪意がどのような形で萌芽するのかを見事にあぶりだしている。
                  些細なことが契機となり犯罪へと突き進んでいく。

                  なにより怖いのはその犯罪者の心の中に良心の呵責が全く見えない点である。 

                  「どうしてって? 面白いからに決まってんじゃん。」(黒いハトより)

                  主人公である捜査一課 犬養隼人の造形も魅力的である。

                  再生への心に共鳴する一冊 ワン・モア

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                    JUGEMテーマ:読書
                    「ねじまき鳥クロニクル」の主人公 岡田トオルは突然失踪した妻クミコを探すために、わずかな手掛かりにすがる。

                    しかし、自分にはなす術が全くない。

                    傷心がずっと続いている。

                    傷ついた心が再生するためにはどれくらいの月日が必要なのだろうか?
                    完全に再生することなどあるのであろうか?
                    それすらわからない。

                    人と出会い、人を愛することは生きる力になる。
                    反転、それは絶望となり、すべてを失うことと等価である。

                    そのことを齢50をすぎて、痛切に感じている。

                    そんな状況の中で、一冊の本を読んだ。

                    先ごろ、直木賞を受賞した桜木紫乃「ワン・モア」である。
                    素晴らしいの一言に尽きる。

                    ひとつひとつの話がつながっている連作集である。

                    絶望に打ちひしがれたそれぞれの人間が再び生きることを誓うストーリである。
                    静かだが、強く心に共鳴する人間小説である。

                    翻って自分自身。
                    再生するための手掛かりがどこにあるのか、探すための一歩を踏み出さないとならないのだと言いきかせている。
                     

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