「幸福な生活」 最後の一行の鮮やかさ
先日、2013年の本屋大賞を受賞し、いま最も注目を集めている作家 百田尚樹の異色の作品ともいわれる「幸福な生活」(祥伝社)を一気読みした。
実におもしろかった。
最後に一行でやられる作品群である。
カウンターパンチのような落ち。
剃刀のごとくの切れ味。見事である。
長編だけでなくこうしたショートショートでも筆力をいかんなく発揮している。
おそるべき作家である。
個人的には一番意表を突かれたが「豹変」。
背筋が凍ったのが「残りもの」「ビデオレター」。
そして、あっけにとられたのが表題の「幸福な生活」。
日々当たり前だと感じていることが、実は本当はこんなにも恐ろしいものかもしれないということを嫌がおうにも突き付けてくる。
題材が身近なだけに、怖さが直接的に突き刺さってくる。
読んだら嵌る一冊である。
情念のピアニズム
同じ話題で2回連続で記事を書くことはほとんどないのだが、今日もキースのピアノである。
ケルンコンサート。
「ケルン 1975年 1月24日パート1」の特に前半13分に及ぶメロディーは凄すぎる。
キースの奏でる音符が、心をかき乱す。
なんと美しく 哀しい旋律。
心が揺れる。乱れる。
苦しくなるほどの音色である。
崇高でありながら、感性を激しく揺らす情念のピアニズム。
ドボルザークの「アメリカ」もいいが、自分のいまの心境にはこの音ほど心に響くものはない。
リピートはまだまだ続く・・・
今さらながら・・・ ケルンコンサート
キース・ジャレットの「ケルンコンサート」を久々に聴きまくった。
ピアノアルバムの不滅の金字塔である。
大学時代、友人の部屋で初めて聴いたときのショックは今でも鮮やかに覚えている。
ジャズとは無縁の世界で生きていた自分の人生に強烈なインパクトを投じてくれた。
美しい旋律が譜面のない即興演奏=瞬間的作曲であることにも驚かされた。
恐ろしくも濃密な演奏。心に切れ込んでくる物悲しい旋律。
時折混じる、キース自身のうなり声。
彼は何を想像しながらピアノを弾いていたのかと考える。
僕はいまある女性を思い描きながら聴いていた。
その女性の事がたまらなく好きである。
でも、好きであるがゆえに、心は張り裂けんばかりに苦しい。寂しい。
そういういまの心の隙間にキースのピアノは入り込んできて、はなれない。
リピート再生は終わらない・・・
いつまでもショパン ノクターン5分間の奇跡
「さよならドビュッシー」で鮮烈な読後感を与えてくれた中山七理の音楽ミステリーシリーズの最新刊「いつまでもショパン」(宝島社)を読んだ。
いま、ボストンマラソン開催時でのテロ騒動が大きなニュースとなっているが、それを髣髴とさせる舞台である。
ポーランド。ショパン・コンクール。
頻発するテロ騒動にあって、なぜかコンクールは開催を続行する。
テロに屈しないという名目で・・・
犯人は「ピアニスト」と異名をとる、コンクールの大会関係者。
そして、ラストの驚愕の事実。
物語にはさまれる、アメリカ軍とタリバンとの人質をめぐる攻防の中で流れるショパンのノクターン。
5分間の奇跡のエピソードが大きな余韻を残す。
ミステリー度は低いのかもしれない。
ピアノの演奏に関する記述がこれでもかと出てくる。
それゆえ、好悪が分かれる作品といえる。
クラシック好き。特にピアノ曲が好きな人には想像力を刺激される作品である。
私は好きである。
一粒で二度おいしい。
大きな収穫 名もなき世界のエンドロール
第25回小説すばる新人賞受賞作。
「名もなき世界のエンドロール」(集英社)を一気に読み終えた。
期待以上のおもしろさであった。
小説がもつ虚構の世界の中での「物語」の面白さを十分に味わえた。
「プロポーズ大作戦」という名前からは想像だにできない壮大な企み。
登場人物の会話の端々に、名画の名セリフを排しながら、現在と過去を行きつ戻りつしながら、物語は疾走していく。
構想に力を入れたなと思わせる見事な書きっぷりである。
「一日あれば世界は変わる。」
その一日のために まことが仕掛けた10年かけたあっと言わせるどっきりとは・・・
多くの小説好きに読んでもらいたい一冊である。
弦楽四重奏曲12番「アメリカ」
先日、私のクラシック音楽の指南役である知人と酒を酌み交わしていた。
その時の話題にでたのがドヴォルザークの弦楽四重奏曲12番「アメリカ」である。
この2日間、ひたすら聴いていた。
ドイツの古典主義とチェコの民族舞曲との混交といわれるドヴォルザークにしか作りえない奇跡の作品といわれている。
完全にやられた。
特に第2楽章の悲しみをたたえた美しさはなんだ!
圧倒された。その静謐さに。
これを聴いて心に何らかの感情の波が立たない人がいるとは思えない。
第14番もすばらしい。
クラシック音楽の森は深く、豊潤である。
抜け出すことができない。
黒熱病 カラアザール
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日記・一般日本にいるとわからないことが多くある。
だから、常に感性のアンテナをしっかり立てておく必要がある。
感性がマヒしてしまえば、他者への想像力は働かない。
それは、とても恐ろしいことである。
そんな思いになったのは、今月号の「DAYS JAPAN」でのインドで猛威を振るっている黒熱病「カラアザール」の記事を目にしたからである。
正式には「内臓リーシュマニア症」とよばれる病気であり、感染すると、病原体の原虫が体内の免疫系を侵し、発熱や体力消耗、極度の貧血、肝臓・脾臓肥大などの症状を引き起こし、適切な治療を施さなければ、100%死亡する。
現在76か国で症例が見つかり、患者数は年間50万人に上る。
発症する地域が、経済的に貧しい地域であるため、「貧者の病気」ともいわれている。
患者一人当たりの平均治療費は37000円と高額であり、現在は国境なき医師団が無料で治療を行っているが、それにも限界がある。
各国の製薬会社が薬剤の価格を下げる努力をしないと、助かる患者も死んでいくと述べられていた。
つまり、ジェネリック薬品の研究・認可が求められているのである。
そこに立ちはだかるのがTPPの問題である。
自国の事だけでなく、助けをもとめている国や病気で苦しんでいる民のことを経済大国とよばれる日本もむくめ各国が考えていく時代である。
そうしないと、世界の人々との共存などありえない。
FULL DARK,NO STARS キングの底力
JUGEMテーマ:
読書4月に入って初めての書き込みである。
職場の異動もあり、ばたばたとした日々を過ごしている。
そんななか、久々にホラーの帝王 スティーヴン・キングの最新作を読んだ。
中編をまとめた、2010年に刊行された「FULL DARK,NO STARS」の中から2つの作品を集めた「1922」である。
日本語に訳せば、星もない、真っ暗闇という題名が指し示しているように、全く救いのない物語である。
さすがは、キング。妥協も容赦もない。
240ページというボリュームで長編ともいえる「1922」は、殺人を犯した一人の男の罪悪感に打ちのめされる物語である。
キングの凄さは罪悪感という実体のないものを、具体に置き換えて、読者に突きつけてくるところである。
生理的に不快感を呼びおこすくらいの書きっぷりが圧巻である。
ラストはまさに衝撃的。
しかし、不思議と読後感は悪くない。
そこが、キングのキングたる所以。
凡百の作家が足元にも及ばない、物語作りの力なのである。
もう一編の「公正な取引」もおもしろい。
悪魔との契約の話で、一気に読ませる。
全てのものをなぎ倒していくかのようなスピーディーな展開に引き込まれる。
こちらも、全く救いがない。
2編ともキングがキングたる力を見せつけてくれる作品である。
好きである。
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