これが小説!  トマス・H・クックの完成度

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    JUGEMテーマ:読書

    アメリカの作家の中で最も好きな一人であり、ミステリーという範疇を超えるいわば「人間小説」ともいえる作品を紡ぎだしているのが、トマス・H・クックである。

    静かな語りの物語は、サスペンスとかスリルといった言葉にはそぐわない。

    そういう意味では1ページ、1ページをまるで大切な宝物箱のひもをほどくかのように読んでいく醍醐味がある。

    今は昨年、文春文庫から久々に刊行された「沼地の記憶」を読んでいる。

    トマス・H・クックの名を一躍有名にしたのは90年代に発表された「記憶4部作」といわれるものである。
    個人的には「死の記憶」が一番、心に鮮烈な印象を残した・・・
    また、タイムリミット型の「闇に問いかける男」の最後の余韻は今でも心に楔のようにひっかかったままだ。

    この「沼地の記憶」では殺人を犯した父親をレポートにするその息子と教師が主人公である。
    テーマはずばり「悪」である。

    昨日、今日と作品を味わいながら読み進めているがすでに330ページを読み終えた。
    しかし、この小説の着地点が分からない。
    分からないというのは嘘で、分かりそうなのだが分からないといったほうがクックの作品にはあてはまる。

    しかし、語り口の見事さにはほれぼれする。純文学の作品を読んでいるようだ。
    作品のもつ奥の深さも見事だ。
    人間のもつ因業を描かせたら彼の右に出るものはいないだろう。

    過去と現在がオーバーラップする書きぶりも彼ならではのものだ。

    熟練の筆致を思う存分味わっている。素晴らしい作家だ。
     

    MACの書体 スティーブ・ジョブズの美的感覚

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      JUGEMテーマ:日記・一般

      先日、ちょっとした出逢いがあった。
      自分がiPADを使っているのを見て、「MAC好きなんですか?」と声をかけてこられた女性がいたので、「今まではWindows一本でしたが、いろいろ不満な面があり、今はMAC大好き人間になりました。」と答えたところ、実はMACの書体の中でヒラギノ体というのがあるのご存じと聞き返されたので、「綺麗でスマートなフォントですよね。」と答えると、
      「主人が作ったんです。」というサプライズ回答だった。

      その顔にはある種、誇りのようなものがにじんでいた。

      MACのフォントはシンプルであるが、綺麗である。
      さすがはステイーブ・ジョブズ。

      大学時代にカリグラフィーを学んでいたセンスがフォントひとつにもあふれている

      この自分のブログもWindowsで作成したものとMACで作成したものとではその美しさに歴然とした違いがある。

      プロのデザイナーや教育関係者がMAC利用の多数を占めるというのは、繊細な感受性をもたなければよいデザインも教育もできないということの証明である。

      たかが書体ではない。

      13歳からプログラミングなどコンピューターだけを主として学んできたビル・ゲイツには永遠に分からない発想であろう。Windowsの雑さ加減はそういう面にあるのだ。
       

      コーネル・ウールリッチの傑作短編集

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        JUGEMテーマ:読書

        「51番目の密室」で短編の持つキレの良さを感じさせてくれたコーネル・ウールリッチの傑作短編集の最終巻を何とか古本で購入した。
        生誕100周年を記念して刊行された中の最終巻である。

        ウールリッチの短編の魅力はサプライズというよりは、緊迫したスリリングな展開、タイムリミット型のエンディングにあると思う。
        この作品の中でのお気に入りは、「天使の顔」「眼」である。
        どちらも復讐という形をとっているが、「天使の顔」ではあっと思わせる落としが待っている。
        「眼」は眼でしか意思表示が出来ない人間の証言という、今では古典ともいえる展開であるが、十分に楽しめた。
         
        「ぎろちん」も捨て難い。死刑に処する側と死刑を免れようとする人間の駆け引き。最後迄目が離せない。
         不思議な余韻を心に残す「セントルイス・ブルース」も味わい深い。 秋の夜長には最適な一冊である。 また一人好きな作家が増えた。

        さらに・大人の問題   舌鋒鋭い五味太郎の主張

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          JUGEMテーマ:読書

          人気絵本作家である五味太郎「さらに・大人の問題」は痛快な問題作である。
          問題作というのはこの本に書かれていることが問題なのではなく、問題提起をしている点にある。

          当たり前だと思っていることを「それって本当に当たり前?」と問うことは大変勇気のいることである。
          素朴であれば素朴であるほど、胸をつく。

          たとえば、今の学校教育についての語り。

          「絵本の読み聞かせ」なんていう作業が延々と続いていますが、読み聞かせとはどういう意識でしょうか。聞かされる側、つまり、子どもがそれによって心が豊かになる。幸せになる。と考えること自体が人権侵害である。

          明るく、楽しげな雰囲気の中で、無意識・無自覚に行われる人権侵害が一番悪質です。

          これは、一例であるが、淡々とした語り口の中に極めて強い主張が含まれている。

          子どもによかれと思って行っていることは、単なるお仕着せではないのか。
          子どもの思いや表現の自由を抑え込んではいないのかという視点に立つことが大切と五味さんは言っているような気がしてならない。

          シートベルトの着用義務にについても反論している。するしないは運転する側の自己責任であり、着用しなければ罰するという考え方そのものが誤りだというものである。

          自分の命を生かすも殺すも自分の意志によるものではないかと問う姿勢は説得力があり、罰せられることが当たり前という考えに陥る思考停止を思いとどまらせてくれる。

          少年犯罪に関しても舌鋒は鋭い。日々殺人やひどいことを行っているのは大人そのものであり、圧倒的に大人のほうに問題があると指摘し、したり顔で今の少年の心の闇のふかさなどとテレビで語る識者をこきおろしている。

          読み終わったあとで、当たり前って何と考えさせてくれるおもしろ本である。
           

          何かを捨てないと前には進めない

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            JUGEMテーマ:日記・一般

            一日で三回目の書き込みである。
            精神状態は決してよくない。
            端的にいえば落ち込んでいる。
            だから、読書をし、書きこむ。

            スティーブ・ジョブズの影響でもある。
            iPODの中で一番の売れ筋だったminiの生産を打ち切りnanoに切り替えたとき、なぜリスクをあえて冒すのかと問われたジョブズは、常に大胆なチャレンジをし続けることが大切であると述べている。

            「後戻りできない状況に自分を追い込むんだ。そうすればあとはやるしかない。」

            「何かを捨てないと前には進めない。」

             

            子どもたちはどこで寝る

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              JUGEMテーマ:日記・一般

              以前から気になっていた写真集を図書館で見た。

              「WHERE  CHILDREN  SLEEP」である。

              17カ国。56人の子どもたちの寝室を掲載した写真集である。洋書だ。

              寝室というが、ブラジル・リオデジャアネイロのアレックス(9歳)の寝場所は家の外に打ち捨てられたソファである。

              彼は、学校へは行かず町で物乞いや盗みを働いて暮らしている。そうしないと生きていけないからだ。年寄りから盗み、赤信号で停止したタクシーの運転手から盗む。
              また、シンナー中毒でもある。

              ネパールのカトマンズ近郊にすむインディラの寝室は、家族でたったひとつの部屋の中を床にマットレスを敷いて寝る。ベッドは両親である。
              学校へは通ってはいるものの、石切り場での労働も毎日の日課である、彼女が石切りの斧をもっている写真が印象的である。家事労働も一日5〜6時間は当たり前だ。
              木で編まれた天井から木漏れ日が差し込んでくるのだが、それが明りだ。

              改めて日本の子どもたちの物質的な豊かさが浮き彫りになってくる。

              自分でも手元に置きたいと考え、アマゾンに早速注文したが、在庫切れだった。
               

              石川啄木  釧路時代の76日間

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                JUGEMテーマ:日記・一般

                石川啄木といえば、自分が学生時代に学んだ印象からすれば、線の細い薄幸な作家というイメージが強い。しかし、朝日新聞のWEB版のライフの記事を読んでその印象が変わった。
                紹介したい。

                 駅は、出会いと別れ、喜びや悲しみが行き交う場所でもある。1901(明治34)年開業以来、多くの人が北海道の釧路駅を行き交った。来年没後100年を迎える歌人石川啄木(1886―1912年)も、そのひとりだった。

                1908年(明治41年)1月21日夜。啄木は、今の場所から南西に数百メートルほどの場所にあった旧釧路駅のプラットホームに立った。大火ですべてを失った函館、上司とぶつかり職を辞した小樽を経て、釧路へと行き着いた。明かりも少なく雪が舞う中、歩いて宿に向かう。

                 さいはての駅に下り立ち/雪あかり/さびしき町にあゆみ入りにき

                のちに啄木は歌集「一握の砂」で、釧路駅に着いたときの心象を、こう詠んでいる。

                失意の中、啄木は旧釧路新聞社(現北海道新聞社)の記者として再出発する。すぐに編集長格になるが、またもや上司への不満と、東京での創作活動へのあこがれから、釧路を離れることになる。

                滞在日数は、わずか76日。ただ、釧路啄木会の北畠立朴(りゅうぼく)会長は「仕事に恋にと、啄木にとって釧路時代は充実した時であったはずです」と説明する。

                啄木は、恋多き歌人だった。ともに啄木に強い思いを寄せた芸妓(げいぎ)と薬局助手は、啄木の部屋で張り合ったまま明け方まで帰ろうとしなかった。

                 小奴(やっこ)といひし女の/やはらかき/耳朶(みみたぼ)なども忘れがたかり

                 わが室に女泣きしを/小説のなかの事かと/おもひ出づる日

                 「一握の砂」の“忘れがたき人人”には、こうした釧路時代の女性の歌が詠まれている。

                研究によると、啄木は釧路滞在中、料亭に通いつめた。当時の月給は、破格の約25円。「単純に1円を1万円として月給25万円で、料亭代が1回5万円以上。それを30回以上通ってますね」。残した借金は、今のお金なら170万円以上になる計算だ。

                釧路時代の啄木を夢中にさせた酒、恋愛、そして借金。「まさに、はちゃめちゃです。あふれる才能と両極端。 」



                なんとも人間的であり、共感すら覚える。現代なら、キャバのお気に入りの女性のために通い詰める男性となるのであろうか。

                釧路は自分も20年くらい前に立ち寄った記憶がある。電車の待ち合わせのためのわずかな時間であった。夏の北海道の旅で立ち寄った駅にはそれぞれに思い出がある。
                旅先であるさいはての礼文島で出会った女性に恋をしたこともある。
                いまとなっては懐かしい思い出だ。
                啄木はどんな気持ちで釧路を立ち去ったのだろうか。そのことに興味が湧く。

                きっと去りがたい思い。切ない恋慕の情をかかえて去ったのではないか。

                自分にとって、そういう思いの強い駅は松江である。
                別れの駅である。 

                 

                 

                 


                心が荒れ野を彷徨っている

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                  JUGEMテーマ:日記・一般

                  こんな記事誰も読みたくないだろうなと思う記事をあえて書く。



                  いま、自分の心は荒れ野を彷徨っている。

                  その心はガラス細工のように木っ端みじんに砕け散り、跳ね返って自分の臓器に突き刺さったままだ。

                  かくも人を好きになるということは苦しいことか。

                  かくも人の吐く言葉は毒のように心をかき乱すものか。

                  何も思考することができない。

                  時に優しさは嫉妬よりも罪深いものだ。

                  体の中が血だらけで身動きがとれない。

                  そして、精神安定剤に無意識に手が伸びる。
                   

                  意図的な文法ミスの効果

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                    JUGEMテーマ:ニュース
                    Mac関連の雑誌のみならず、先日逝去したスティーブ・ジョブズに関する記事が色々な雑誌で見られる。
                    著名人の中でも一番クールな追悼コメントは映画監督のスパイク・リーのものだろう。
                     
                    「3つのリンゴが世界を変えた。聖書のリンゴ。ニュートンのリンゴ。そしてジョブズのリンゴ」

                    またあまりにも有名なキャッチフレーズ「Think different.」は意図的な文法上のミスで決意を強調したのである。本来ならdifferentではなく副詞のdifferentlyを用いるのが正しい。この意図的なミスが人々の心に記憶として残る役割を果たした。

                    このキャッチフレーズが発表された1997年末には、まだ魅力的な製品は見当たらず、口先だけとも揶揄された。

                    しかし、実際にはフラットパネル採用のディスプレイ、iMACの開発が着々と進められており、製品発表の際にはこのキャッチフレーズの意味を実感をともなって知ることのなるのである。
                     
                    大胆にして緻密。

                    ビジネスを軌道にのせて利益を上げることだけにとらわれず、イノベーターとしての不動のアイデンティティーの復権をジョブズは望み行動した。

                    傑作ぞろいの垂涎の短編集

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                      JUGEMテーマ:読書
                      かつて、世界ミステリ全集というのがあり、第18巻は「37の短編」というタイトルが、つけられていた。このシリーズはまさにミステリの百科辞典的な趣のあるもので、ー冊に大体3人の作家の代表的な作品が収められているという豪華なものであった。
                      図書館で借りては貪るようにいくつかの作品を読んだ記憶がある。
                      その内の一冊が、「37の短編」であった。

                      ハヤカワ・ミステリが、粋な計らいでその内の26編を「天外消失」「51番目の密室」と題してアンソロジーとしてまとめてくれた。
                       いまは、昨年刊行された後者の方を読んでいる。
                      短編のよさは、どの作品からでも読めるという自由度の高い読書が楽しめる点にある。そして、この作品には以前絶賛したクリスチアナ・ブランドの「ジェミニークリケット事件」のイギリス版が収録されている。この1作品だけでも、この本は買いだ。

                      しかし、他の作品も粒揃いの名品である。まだ全てを読み返していないのだが、個人的には、コーネル・ウールリッチの「ー滴の血」、ヘレン・マクロイの「燕京綺譚」、カーター・ディクソンの「鷹の森の家」が、好きである。
                       
                      「一滴の血」の最後の切れ味は、私の大好きな刑事コロンボでいえば「二枚のドガの絵」の幕切れを彷彿とさせる鮮やかさだ。 読書の秋にはもってこいの作品集である。
                      読み出したら止まらないこと確実だ。

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