矢口敦子新作「あれから」

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    矢口敦子の新作「あれから」を読みました。
    主人公の父親が痴漢として逮捕されただけでなく、自分を取り押さえようとした青年と争った末に青年はホーム下に転落し、事故死。
    父親も頭を強打し、取調べを病院で受けているちょっとした空白の時間に自殺。
    果たして、父親は痴漢を犯したのか。青年を突き落としたのか。その真相を探るべく、二人の娘の執拗なまでの追及と心の葛藤が描かれています。
    果たして、行き着いた真相とは?
    「償い」ほどではないにしろ、佳作であると思います。
    娘の一人である主人公のたどる人生は悲しく、重たいものですが、最後の1頁でとても救われた気持ちになりました。
    以前も書きましたが、小説にしろ、映画にしろやはり最後がとても大切だと思うのです。
    それはむりやりハッピーエンドという意味ではなく、心の中に余韻をどう残していくのか。そこに作家や監督の力量は問われているのだと思います。

    どこまで行くのか 道尾秀介

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      読みたいと思っていた道尾秀介「鬼の跫音」を一気呵成に読了しました。
      感想はただ一言。
      道尾秀介はどこまで行くのか。
      昨年の個人的な日本のミステリーのNO、1は「ラットマン」だと思っているのですが、この短編集はミステリーという狭い概念を超えた人間のもつどうしようもない悪意ややりきれない思い、たとえそれが不幸に向かって進むマイナスのエネルギーだとしても・・・そういった人間のもつ負の業を描ききった作品集です。
      なかでも一番衝撃的だったのが「冬の鬼」。
      いい意味でやられたという感覚です。ホラー以上に怖い作品です。
      道尾秀介から目が離せません。

      現時点での最高傑作!?

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        仙川 環「再発」は、現時点でのこの作家の最高傑作ではないかと思います。
        読みやすさは今までの作品と同じですが、謎が明らかになっていく過程の緊迫感。
        途中までは全く予想もしなかった人間のもつ性や業の奥深さが根底から湧き上がってくるクライマックスへのくだりは、読み応え十分でした。
        不思議なことに、この作品を読み終えて、今日の新聞の神奈川版を読んでいたら、偶然にも狂犬病のワクチン接種を呼びかける横浜獣医師会からのおねがいが目に飛び込んできました。狂犬病がこの「再発」の大きな主題ですが、日本に住んでいる私たちには根絶された病気というイメージがあるような気がします。現に、私自身この本を読むまでは、何でいま「狂犬病」という違和感を覚えたのも事実です。
        しかし、世界では毎年50000人もの方がなくなっているというのも事実。しかも、狂犬病のウイルスに感染したら、2週間以内で確実に死ぬという史上最悪のウイルスであることを知りました。ペットブームで浮かれている一方で、静かにそういった死の病が再発しているのだとしたら・・・


        仙川 環にはまっている

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          いま、仙川 環の医療ミステリーにはまっています。
          3作目の「繁殖」は読了し、最新作の「再発」を読んでいます。
          繁殖はミステリーというよりも、前回のブログでも記したように人の善意が人を苦しめてしまう。そして、その善意が分かるからこそその罪を隠蔽しようとする人も出てくる。そして、その人も善意ある人であるという展開で、読んでいて考えさせられる部分は多くありました。
          よかれと思って発した言葉や相手を思ってとったつもりの行動が、相手には伝わらず逆に傷つけてしまったり、うらまれてしまったり・・・
          そういうことはありますよね。
          善意だからこそ性質(たち)が悪いとなじられた経験をしたことが私自身あります。
          その辛さを心で浮かべながら読んでいました。
          しかし、やはり人は人の善意に支えられて生きていくという結末に、ほっと心温まるものを感じました。
          「再発」は狂犬病がテーマで、緊迫感は「繁殖」以上です。
          本当に読みやすい文体で、物語の中にすっと入っていける感覚がいいですね。
          既に半分読み終えました。これからが物語の佳境です。

          直球勝負のおもしろさ堪能!

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            仙川 環の「感染」おもしろかったです。いまは3作目の「繁殖」を読んでいます。
            この作家のよさはなんと言っても、読みやすさにあると思います。
            医療ミステリーなど、ある専門分野の小説となると、専門的な用語や難解な語句が多用されがちで、時には作家の薀蓄話が横溢するものも多く見受けられますが、そういったことはなく、直球で小説の物語としてのおもしろさを堪能することが出来る点に好感がもてます。それこそが小説の基本であると思います。
            「繁殖」もいいです。後もう少しで読了ですが、時として人の善意が人を苦しめることになるという深いテーマを含んでいます。欲をいえば、登場人物の背景などをもう少し丁寧に織り込んでいくと、奥行きのあるものになるのではないかと思います。
            読みやすさだけではない人間の業を描く作家になってほしいと期待しています。

            医療ミステリー 感染

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              今日から3月。昨年は3月の書き込みは3回と酷い状態だったので、忙しさを言い訳にはせずに、定期的にブログを更新していきたいと考えています。
              早速、今日から読み始めているのが仙川 環「感染」です。(小学館文庫)
              2002年の小学館文庫小説賞作品ということです。
              とにかくテンポよくストーリーが展開していくので、時間の経つのも忘れて話の中に引き込まれていく魅力があります。
              最近は医療ミステリーも1ジャンルとして定着してきましたね。
              臓器移植問題と連続幼児誘拐事件とのかかわりは・・・
              あっという間に3分の2を読んでしまいました。
              これから続きを読みます。

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