やられた ぶっ飛び警察小説 ストロベリーナイト

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    「武士道セブンティーン」で青春の熱さを感じさせてくれた誉田哲也
    今度は一転してというか本領発揮というか彼の警察小説「ストロベリーナイト」(光文社文庫)を読み終わりました。
    警察小説といえば、最近日本でもミステリーの重要な一角を占めるようになってきましたね。私は、エド・マクベインの87分署シリーズの大大ファンなので、なかなか今までは日本の警察小説に馴染めずにいました。
    ところが、この「ストロベリーナイト」。いやーまいりました。正直はまりました。
    おもしろかったです。冒頭の強烈極まりない、ある意味嫌悪感さえ抱くようなグロテスクなシーンで心臓をわしづかみされ、一方で登場人物である個性豊かな警察内部の人間の描き方も秀逸。また、人間の抱える心の闇、人間関係の軋轢など。
    単なる猟奇的な殺人事件の解決というサイコという範疇に収まらないドラマが展開されており、まったくだれることなく、むしろスピード感が加速していく感じは、本好きにはたまらない魅力だと思います。
    一方で、欲を言うならば猟奇的な犯罪を犯す人間のうちに秘める「業」とか「性」をもう少し掘り下げて描くと、もっともっと奥行きのある魅力的な作品になったと思います。
    しかし、十分に堪能できる小説です。今は、この続編の「ソウルケイジ」を読み始めています。

    一本とられた!王道青春ストーリー

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      いやはや、誉田哲也「武士道セブンティーン」。おもしろかったです。
      まさに王道青春ストーリー。
      昨年読んで大絶賛した「BOX」はボクシングを舞台にした高校生の男子の熱い青春を描ききった傑作でしたが、こちらはタイトルの武士道が示している通り、舞台は「剣道部」、しかも女子。
      はじめは正直言ってあまり期待していなかったのですが、読み進めていく内に、完全に小説の世界にのめりこんでしまいました。
      早苗と香織。二人の主人公の思いを交互に章立てにして、「会話」も軽妙に、しかも二人の人物像が手に取るように描かれており、十分に堪能しました。
      私はまだ未読ですが、この作品は「武士道シックスティーン」の続編だとか。
      是非、前作も読んでみたいと思います。
      私自身は、個人的には男勝りの、いや喧嘩の場面などでは男以上の力を発揮する「香織」がすきですね。机の上に五輪書が何気に置いてある女子高生。そういう設定だけでも一本とられたって感じです。昨年、あまり話題にならなかったのはどうしてでしょうか?
      不思議です。本屋大賞にノミネートしてほしいなあ。

      希望は世界のどこかにころがってるぜ

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        ページを繰る手がとまらなかった。一気に駆け抜けるように読了しました。
        「希望ヶ丘の人々」。
        クライマックスの墓参の場面。泣いてしまいました。
        号泣ではないけれど、涙がほほを伝いました。
        人は「希望」を求めて一生旅を続けるのかもしれません。
        その旅には、明るい未来だけが待っているわけではないでしょう。
        「希望」の言葉は額なんかに入れるんじゃなくて、半紙のまま、陽にさらされたり、風を浴びたり、時には雨に濡れたりしてぼろぼろになって、それでも残っているからこそ、意味があるんだ。
        ぼろぼろになっても消えない「希望」。
        希望は世界のどこかにころがってるぜ。それを信じろ!!
        あくまで、個人的な意見ですが、この作品はある意味で重松清の魅力が十分に詰め込まれた一冊ではないかと思います。続きが読みたい。そう思わせてくれます。

        そこには心を揺さぶる言葉がある

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          たかが小説ではない。小説だけでなく文学が世界を変えてきた。大げさにいえば、作家がつむぎだす言葉が人の生き方を変えることだってあると思う。
          重松清の新作を読んでいてもそう感じる。
          「流星ワゴン」ほどでもない。「その日の前に」ほど泣けない。「青い鳥」の村内先生のようにいつまでも心に印象深く残る登場人物でもない。
          でも、私は断言する。「希望ヶ丘の人々」はいい作品ですと。
          読んでくださいと。
          えーちゃんというニックネームのついた、かつての希望ヶ丘中の伝説の英雄が、ひょんなきっかけから母校の授業参観に30年ぶりに表れ、そのクラスの中に潜む「いじめ」を見つけたときに発する言葉。
          「俺は思うんだ。世界で一番頑張ってる奴っていうのは、いじめに逢ってる奴だよ。必死に頑張ってる。懸命に踏ん張ってる。言葉のあやじゃない。マジのマジの本気で、必死だし、命がけなんだ。少年は頑張ってる。誰にも言えずに、命を張って生きている。」
          「でもな、少年。それは悲しい頑張り方なんだよ。そんな頑張り方を親は・・・」
          まだ言葉は続くのですが、この言葉だけで、重松清が語りたいことは受け止められる。
          それが小説の力だと思う。文学の力だと思う。言葉のもつ力だと思う。
          だから、本に向かおう。言葉から力をもらおう。人間はそんなに強かない。

          重松清最新長編「希望ヶ丘の人々」

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            重松清の最新刊「希望ヶ丘の人々」読んでいます。
            重松清は昨年度、多くの作品が刊行されたのですが、なかなか全てを読みきれていません。昨年では一番心に残ったのは、短編集の「みぞれ」(角川文庫)と「気をつけ礼」(新潮社)ですね。
            何気ない日常を生きる人々や家族の哀歓を大げさではなく、静かにそして丁寧に語る物語のつむぎ方に共感します。
            最新作は長編で、500ページあります。
            新しいニュータウン物語と帯には銘打たれていますが、40歳以降の読者の方なら、物語にシンクロしながら、「そうなんだよな。」と自分の青春時代を懐かしみながら、すっと物語の中に入っていけるストーリー展開です。
            しかし、一方で家族の死、いじめ、学級崩壊、モンスターペアレンツなどなど。
            重松清らしいなあと思わせる複線もあり、ついついもう1ページと引き込まれていきます。
            それにしても、人物の描き方がうまい。会話もいい。まるで、小説ではなくて、連続ドラマの脚本を読んでいるかのようなスピード感があります。
            そうはいっても、多くの映像化された重松作品で、「これはいい。」という作品がないというのもまた事実でしょう。「きみの友達」しかり「その日の前に」しかり。
            映像が原作を超えないというのは大抵の作家の作品に言えるのでしょうが、この作品はできればドラマ化してほしいなあと個人的に思っています。

            宇宙の力を考えろ・モダンタイムス読了

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              伊坂幸太郎「モダンタイムス」読了しました。
              伊坂作品の中では一番の長編です。
              主人公たちがつきとめようとした真相。そのために始めた「検索」。
              そして、そこから起こる「監視」「拷問」。
              クライマックスに近づくにつれて、鮮明になってくるシステム対個。
              窮地の中でつぶやかれた言葉。
              「宇宙の力を考えろ。宇宙の力で、地球は動き、樹木は育つ。その宇宙の力は、君の中にもある。」

              「ゴールデンスランバー」や「フィッシュストーリー」のときと比べて、反応はあまりないようですが、自分としては十分に楽しめました。
              ただ、「ゴールデンスランバー」が徹底したエンターテイメントを追求した作品といわれている一方で、娯楽性という観点からすれば、好みがはっきりと分かれてしまうということは否めないと思います。ただ、奇妙な符号としては、全く個人的な意見ですが、前に紹介した森 達也「東京スタンピード」と底流で流れているものには共通性があるということです。一言では言えないですが、情報化が高度に発達していく中での真偽とは?情報の一方的な解釈・誘導。それがシステム化されるとどんな未来になるのか?考えさせられます。


              伊坂幸太郎はやっぱただものじゃない

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                伊坂幸太郎の新作「モダンタイムス」を今、貪るように読んでいます。
                530ページもあっという間にあと100ページとなってしまいました。
                本人いわく、本屋大賞及びこのミス2008年版の第一位に輝いた「ゴールデンスランバー」の兄と弟的な作品ということですが、予測不能の展開や伊坂作品にはあまり今まで見られなかったどぎつい拷問シーンあり、はたまた、「魔王」の続編と銘打たれているだけあって、安藤潤也、詩織夫妻の登場など、他の作品とリンクする作風は伊坂ワールドの真骨頂といったところでしょうか。
                「ゴールデンスランバー」は確かに一級娯楽作品だとは思いますが、予定調和をかき乱す大胆さという点では「モダンタイムス」のほうが個人的に気に入っています。
                「検索」「監視」「超能力」。この作品を語るキーワードはたくさんあるでしょうが、やはり、一番は「勇気」がぴったりでしょう。
                実家に忘れてきました。何を?勇気。この書き出しでノックアウトです。「重力ピエロ」「ラッシュライフ」も書き出しまたは冒頭のタイトルで一気に読者を伊坂ワールドに引き込みましたが、やはりさすがです。
                おもしろい作品は書き出しで決まるのだ。私の読書量を上回る先輩はそう言っていました。しかし、謎を追っかけていくのに、これだけの複線をはりめぐらせて、しかし、飽きることなくだれさせることなく読ませる力は凄い!
                それは、登場人物一人ひとりが躍動感に溢れ、発する一言一言のなかに時にはシニカルに、時にはコミカルにと程よい味付けが施されているからなんでしょう。
                あと100ページで読了するのが残念だと感じるくらいの魅力ある作品です。
                「人生を楽しむには、勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい。」

                人間の英知は意外と捨てたもんじゃない

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                  森達也「東京スタンピード」読了しました。
                  読み終えた後に、ページを閉じてもなおしばらく考えさせられる。
                  森氏の作品にはそういった作品が多いです。個人的な考えですので、未読の方にはなかなかうまく伝えられないのですが・・・
                  「いのちの食べ方」「A]。そして、昨年の「死刑」など。
                  特に、昨年読んだ本全ての中で、一番自分の心に響いたのは「死刑」でした。
                  吉田拓郎の「竜飛岬」の歌詞ではないですが、「どてっぱらを うち抜かれちゃったねえ。」という感覚でした。
                  そして、この東京スタンピード。小説なのだけれど、描かれている世界は現実ではないかと思うだけのリアル感はあります。
                  その中のエピソードとして「ボーアの夢」が語られるシーンが重要な場面で登場します。
                  ボーアとは量子力学の祖といわれる、ニールス・ボーアです。彼が発見した量子力学の論理が核開発のきっかけになりました。そこで、ボーアは原子爆弾を使用することに対しての警告を死ぬまで続けたと同時に、核兵器があまりにも危険なものゆえに、その管理については各国が話し合い、利害を一致させる手段であるという見解も示していた。
                  しかし、そんな考えは各国からは見向きもされずに、「現実から目を背けた理想主義者」というレッテルをはられ、一笑に付された。だから、「ボーアの夢」。
                  しかし、70年代後半くらいから、防衛手段としての核兵器という論理の矛盾に世界の人々は気づき始めた。ボーアの夢は時として、途方もない楽観性ととらえられる一方で、現実世界では、半世紀以上使用していないという事実に対して前向きに解釈してもいいのではないか。
                  そういった語りが主要な登場人物の語りの中に出てきます。
                  メディアは視聴率のためならばと、些細な事件の中にも特異性のあるものや猟奇的な犯罪を殊更おおきくとらえ、連日報道する。そして、こんな事件はかつての日本には見られなかったなど、まことしやかな顔をした評論家が多数登場して人物像の分析をする。
                  一方では、2007年度の殺人件数は戦後最低であるという事実にはふれない。
                  なぜなら、治安が悪化したととなえるほうが、集団はまとまるから。視聴率がとれるから。そういう操作の中で、私たちは生きている。そして、仮想敵をつくらされる。
                  セキュリティーは強化される。タクシー強盗が起きればすぐに防護仕切りができる。
                  運転手とお客が世間話で楽しく過ごしているというなどという話は全く取り上げられない。あたかも日本のどこでもかしこでもタクシーではそんなことが繰り広げられていると思わせるような扇情的なニュースが流される。
                  まさにルワンダの千の丘ラジオのように。
                  つまりボーアの夢など、たわごとであり、夢を語っても視聴率はとれないという開き直りがそこここに見える。危機意識をあおることが第一使命になっている感さえある。
                  成人式の沖縄での暴れぶりを報道するのもそう。式にきちんと出て、街を夕方まで闊歩することがどれだけニュースの意味をもつのか。法に触れることなどしていないのにもかかわらず・・・そんな暇があったら、ガザ地区にリポーターを派遣して500名以上が死んだというニュースを現地から報道してほしい。そんな気がします。
                  人間の英知はそんなやわなもんんじゃないだろう。意外と捨てたもんじゃないだろう。
                  そう主人公がつぶやいてのラスト一行。「方向は分かっている。あとはまっすぐ歩くだけだ。がんばる。そろそろ起きる。」
                  未来は明るくはないが、暗い暗いと叫んでいてもしょうがないだろう。そんな気持ちになれました。

                  王様のブランチ 読書新人賞おめでとう・BOX

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                    自分が読んで、このブログで紹介した本が、他の人からも「おもしろい」と認められるというのはやはり率直に嬉しいですね。
                    その一冊がBOXです。
                    自分が読んだときには、まだ初版刷りだったのに、最近では書店に立ち寄ると平積みされており8刷にまで売れ行きが伸びているのに驚きました。しかも、帯にはTBSの王様のブランチでの読書新人賞受賞という派手な文字。あの優香さんも絶賛。
                    やっぱりメディアの力って絶大ですね。
                    それはともかくも、とにかくおもしろいです。
                    本当に読み始めたら一気読み確実です。

                    近未来小説 森達也の真骨頂

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                      読みたい、読みたいと思っていた森達也の近未来小説「東京スタンピード」を読んでいます。あっという間に3分の2を読んでしまいました。
                      小説とはいえ、森さんがルポや対談やエッセイなどを通じて語ってきた思いが小説の底流にあります。一言で言えば、以前にも書きましたが、善意のスタンピードは止められないということです。スタンピードとは「暴走」。
                      この小説に書かれている世界は、誇張はあるにせよ、2009年の世界そのものではないかと思えてきます。ピザ屋のチラシの郵便ポストへの投げ入れは黙認しても、権力者や時の政府や警察に都合の悪い左翼的なチラシを投げ入れたものは逮捕するなど、今現在実際に起きていることです。
                      麻生総理の62億の私邸を見学するというイベントを企画したフリーター全般労働組合に対して、事前に警察との間で、デモはしない、見学も徒歩で私邸まで15分程度のところまで接近したら5人一組で見学という穏便な取り決めがなされていたにもかかわらず、実際は無許可デモを決行したとか公務執行妨害という形で3人が11日間にわたり、不当拘留されたということが実際に昨年の10月には起きています。
                      ところが、ニュースソースとしては大きく取り扱われない。YOU TUBEでその模様が流されたのがきっかけで法務委員会で取り上げられたものの、その話題も大手のメディアは取り上げない。完全に政府や警察が恣意的な判断で取り締まる時代がやってきたということでしょう。そのことに疑問を呈することすらできない。なぜなら一つに情報が遮断されているから。そして、いつの間にか、怪しいということだけで、懲らしめるという仮想の敵を設けて、どんどん懲罰がエスカレートしていく。
                      そんなことをいま読んでいて感じます。そして、ルワンダの虐殺を思い返します。
                      ラジオが流したソースを鵜呑みにして100日間で100万人を虐殺した事件。
                      その当時のフランス大統領ミッテランはアフリカならそんなこともありうると発言して大顰蹙を受けたわけですが、東京であってもそういう状況は進んでいるのではないかと森さんは言いたいのではないかと考えます。東京ジェノサイド。決して他人事ではないと思う。読了したらまたブログの感想を書きます。

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