じんわりと瞼が熱くなって・・・

0
    重松清の最新作「季節風・春」ツバメ記念日を読みました。
    短編集ですが、ひとつひとつの作品がとても温かく、読み終えた後に、心の中にじんわりとしたものが残る作品集です。今年読んだ本では、初めて瞼が熱くなり、思わず涙がこぼれてしまいました。感動とか大げさなことではないけれど、人間っていいなあって感じさせてくれる本です。
    どの短編も好きですが、タイトルにもなっているツバメ記念日の次の言葉がいまの自分の心に響きました。
    世の中の記念日のように、何か大きな出来事があったわけではない。誕生日や結婚記念日のように、その日に何かが始まったり、何かが変わったり、というのでもない。
    5月の終わり、梅雨入りの間近の曇り空に覆われた、どうということのない一日だ。
    それでも、パパとママは、その一日をずっと大切にしてきた。
    (中略)
    ベンチの真ん中に由紀が座って、それを左右から挟んでパパとママが座る。何をするというのでもない休日のひとときを、パパはいま、胸を張って、小さな声で、それが幸せってやつだよ、と言おう。
    ネタばれになるので、あとは読んでください。自分もそうですが、仕事が忙しくてついつい自分の本質を見失いがちになったり、心が知らず知らずのうちに、ささくれだっていたりするなあって感じている人。特効薬にはならないけれど、心の栄養剤にはなってくれるそんな作品です。自分は小説の言葉の力を信じています。たかが小説ではない。小説を読んで自然と涙が零れ落ちる自分の感受性を大切にしたい。それってとても素敵なことだと思うから・・・

    さぼっていて すみません。

    0
      さぼっていてすみません。仕事が忙しく、なかなか書き込むだけの余力が残っていません。
      それでも毎日、立ち寄ってくださる方やコメントを残してくださる方がいることは本当にありがたいことです。
      今、読んでいるのは、森達也「視点をずらす思考術」です。講談社現代新書です。森さんの視点は一貫しており、思考停止に陥ってはいけないということです。そして語るときには一人称で。
      空気を読むことは大切だが、空気に従うことは違うという考え方に共感します。メディアが言っているから、政治家や評論家が言っていたからと、全く自分の頭で考えることなしに同調する。それが空気を読むことだというのなら、空気を読めない人間こそいま必要な時代ではないかという論理には説得力があります。少なくとも自分はそう思います。まだ読み途中ですが、興味深い内容です。タイトルに術とついているからといって、安易なハウツー本とはわけが違いますよ。

      心が痛い、しかし温かな結末  「償い」

      0
        3月に入って初めての書き込みとなります。やはり年度末は忙しいですね。
        そんな中、素晴らしい作品と出会いました。カテゴリーでいうとミステリーということになるのでしょうが、清張と同じくそんなカテゴリーを越えた一級の文学作品です。
        矢口敦子「償い」です。
        本の帯の「人の肉体を殺したら罰せられるのに、人の心を殺しても罰せられないのですか?」この言葉がこの本の核をなしています。
        内容についてはふれません。是非一人でも多くの方に読んで感じてほしいからです。
        人間は法律上では裁ききれない罪を数多く犯しているのだと思います。
        何気ない一言。遅すぎた行動。それによって本当に死に追い込むこともあるだろうし、精神的に死をもたらしていることもあるのかも知れない。
        主人公はその苦悩をかかえながら、一人称の名前の自分を捨てて、普通名詞のただのある男になって生きていこうとする。しかし・・・
        物語の終章の次の言葉が鮮烈に心に残ります。
        犯した罪に気づき、どれほど懺悔しても死んだものが還ってくることはない。冷たく酷い現実だ。そして、主人公はこう語る。「生きることだ。逝った者たちの重さを抱えて、よろめきながら最後まで歩きぬくことだ。それが俺の償いだし、きみの償いだ。」よろめきながらでも歩き続けること。そうなのだと思います。そして、ふと重松清の「流星ワゴン」の最後の場面を思い出してしまいました。
        自分が生きていることをひとりでも、大切なことだと感じてくれている人がこの世界にいる限り、生きることをやめてはいけない。生きていてはいけない人間なんてこの世にいない。心が痛い作品でありながら、温かな気持ちで本を閉じることができました。
        お薦めの一冊です。

        calendar
              1
        2345678
        9101112131415
        16171819202122
        23242526272829
        3031     
        << March 2008 >>
        selected entries
        categories
        archives
        recent comment
        recent trackback
        links
        profile
        search this site.
        others
        mobile
        qrcode
        powered
        無料ブログ作成サービス JUGEM