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周五郎の魅力が凝縮された名作「正雪記」

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    JUGEMテーマ:読書

    山本周五郎の「正雪記」(新潮文庫)を今、読み終えた。

    上下巻900ページの長編である。

    正雪とは歴史上の人物である由比正雪のことである。

    周五郎が明確な歴史人物を取り上げることは珍しいし、取り上げるにしても歴史上評価の低いというか悪い印象の人物を取り上げ、周五郎なりの角度からその人物像に独自の意味を与えるという手法には変わりはない。

    由比正雪もそういう人物である。三代将軍家光死後、徳川幕府転覆のクーデターを企図した首謀者ということになっている。

    しかし、周五郎いわく、そんな事実を裏付ける資料はないということであり、取締り当局である幕府の公儀により一方的な発表であり真偽は疑わしいということである。

     

    読み終えた今、思うことはこの作品は周五郎の全ての魅力が凝縮された作品であるということである。

    単なる、由比正雪という人物の一生を綴った物ではない。この作品に内合されているのは伝奇性や正雪を取り巻く人物達の造形描写の面白さ、何より徳川幕府が関ヶ原の戦い以降、豊臣家との戦い(大阪 冬・夏の陣)を経て全国の多くの大名を取り潰したり、領地を没収したりする形で多くの侍の生きる場をなくし、生きる方途を失わさせる悪政のもとで強力な政治基盤を確立していったという大きな社会背景が明確に描かれている点である。

     

    悪謀を図る松平伊豆守 信綱との対決が終盤の読みどころであるが、権力を欲しいままに操る人間への批判が周五郎の筆致から溢れている。

     

    「坐して殺されるよりのるかそるかやってみようという、言葉は壮烈に似ているが、事実は狂気と逆上にすぎない、自分は壮烈に死ぬつもりでも、天下のひろい眼で見れば暴死と言われるだろう、死ぬことに虚栄を張るな、壮烈であろうとなかろうと、死そのものにはなんの変わりもない、生きることを考えろ、勝つか負けるかは運のものだ、たとえ負けるにしても、敵の刃で首を刎ねられまでは生きてたたかうんだ、それが真実の勇気であり、真実の壮烈というものだ」

     

    島原の乱の際に謀殺討死された浪人達をはじめ生きる道を絶たれた全国の同志の悲憤を晴らそうと旗揚げしようとする盟友 丸橋忠也に語りかける場面である。

     

    最後の最後まで生きることにこだわり、自分の信念を貫き通そうとする正雪の姿に清々しさを感じつつ、静かに本を閉じることになる。名作である。


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