門井慶喜の「新選組の料理人」(光文社)を一気読みした。
新選組と言えば司馬遼太郎の「燃えよ剣」「新選組血風録」がその頂点を示すであろう。
この小説は、ひょんなことから賄い方として、入隊をすすめられた菅沼鉢四郎の眼をとおして描かれた新選組の内側を描いた物語である。
入隊したものの、気になるのは蛤御門の変で大火となった京から伏見へと逃げ延びた妻と子の安否。
しかし、驚きの真実を目にすることになる。
一方で、新選組に誘った隊士の原田左之助は妻をめとり、子をもうける。
そのことによって左之助の内面がどう変化していくのかが、この物語の主軸であろう。
新選組の隊士にとって、最も贅沢なことはいい女を抱くことでも、美味い酒を飲むことでもない。
俗世の人が当たり前に望むことこそ、ただで成しているものこそがその贅沢なのである。
だからこそ、家族をつくった左之助に対して、批判をしながらも心の裡では強い羨望の念がある。
それが無用な諍いや葛藤を呼び起こす。
その描き方がとてもうまい。思わず引き込まれる。
最後の場面。剣の腕も立たず、臆病な鉢四郎が戦場の土塊となろうと決意する・・・。
それは左之助の心境の変化と強いコントラストをなし、強く心に迫るものがある。