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行人 
読書 / カーソン・ライダー 
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    夏目漱石「行人」を一気呵成に読んだ。

    470ページに及ぶ長尺な小説である。

    実におもしろかった。

    「一郎」という主人公は、漱石が描いた登場人物の中でも際立っている。

    その際立ち方とは、最も精神的に危うい人間であるということである。

    頭脳は明晰ではあるが、何事にも理が立ち過ぎるので、猜疑心が強く完璧を求めることの理想とそうでない現実の相克に心の中で打ち震え、身動きがとれない状況で日々を生きている。

    とりわけ、心に抱く結婚観は絶望的に暗い。

    「どんな人のところに行こうと、嫁に行けば、女は夫のために邪になるのだ。そういう僕が既に僕の妻をどのくらい悪くしたか分からない。幸福は嫁に行って天真を損なわれた女からは要求できるもんじゃないよ。」

    この言葉に表れているように、家族に中でもとりわけ、妻である「直」に対しては心を許すことはなく、情が交わることはない。

    時にはひどい暴力も振るう。

    そして、一郎の精神的な危うさが端的に表れているのが、妻の貞節を確かめるために弟の二郎に、「二人で一晩宿泊して来いと依頼する場面」である。ここまでくるとサイコパス的な色彩も帯びてくる。

    そして、期せずして嵐の番に和歌山のおんぼろ旅館に宿泊せざるを得ない状況が生まれるのであるが、この場面などはその描写に緊張感がみなぎると同時に、妻である「直」のひとつひとつの二郎に対する言動が妙になまめましく響いてくるという、得もいわれぬ小説としての魅力を放っている。サスペンスフルでありながらも甘美。そして、「何か、とんでもないことが起きるのではないか?」という刺激。流石は漱石である。

    しかし、何も起こらない。起こらないのだが、起きたかの如くその話には決して誰もふれることができないという心理劇がその後も続く・・・

    いよいよ終盤。家族から見て明らかに精神に変調を来たしたと思われる一郎を旅に連れ出すのが同僚のHである。Hの役割はさしずめ精神カウンセラーである。物語は一郎の唯一の理解者であるHの手紙で終わる。

    「あなたがたは兄さんがはたの者を不愉快にするといって、気の毒な兄さんに多少、非難の意味を持たせているようですが、自分が幸福でないものに、他を幸福にする力などあるはずがありません。雲で包まれている太陽に、なぜ暖かい光を与えないかと迫るのは迫る方が無理でしょう。」

    「行人」は煎じ詰めれば狂気の話である。それは、一郎のみならず、結婚を反故にされ盲目になった女や二郎の友人の三沢に迫る悲惨な結婚生活を経験し精神を病んだ女性の話を含めてである。この物語の大きな軸になっている。

    物語の全体像は暗く不気味である。だが、幽かな救いににた余韻が漂うのは、最後のHのようにその狂気の根源を理解しようという人の姿が描かれているからであろう。

    個人的には漱石の作品の中では一番好きである。

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