又吉直樹の初新書となる「夜を乗り越える」(小学館よしもと新書)を読んだ。
なぜ本を読むのかについて、又吉自身の生い立ちからのエピソードを交えながら率直に書いている。
一番、心に残ったのは第4章の「僕と太宰治」である。
又吉直樹が太宰の文学をこの上なく愛していることが伝わってくる。
それだけでなく、自殺をした日 6月13日の夜さへ乗り越えられていたら「全部嘘でした」ですんだかもしれないと綴っている。
「死にたくなるほど苦しい夜には、これは次に楽しいことがあるまでのフリだと信じるようにしている。のどが渇いているときの方が水は美味い。忙しい時の方が休日は楽しい。苦しい人生の方が、たとえ一瞬だとしても、誰よりも重みのある幸福を享受できると信じている。その瞬間がくるのは明日かもしれないし、死ぬ間際かもしれない。その瞬間を逃がさないために生きようと思う。得体の知れない化け物に殺されてたまるかと思う。」
小説を読む意味についてよりもこの文章にKOされた。
誰にでもそういう夜はある。そういう夜を乗り越えるために音楽や小説や絵画がある。
そう強く思った。
そして、僕はいま夏目漱石の「こころ」を読んでいる。