城塞 破格の人間ドラマがここにある。

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    JUGEMテーマ:読書

    貪るように本を読んでいる。

    司馬遼太郎である。先日、紹介した「功名が辻」は司馬流エンタメの真髄であり、読んでいて痛快さを覚えた。

    今、読んでいる「城塞」(文藝春秋)は謀略の権化とかした徳川家康と大阪城に籠り秀頼を操る淀殿を中心とした女官たちとのある意味滑稽さをも帯びた戦いであり、同時に豊臣家の破滅へと確実に向かうシリアスな人間ドラマである。

    作中、筆者はこう語っている。

    「家康の対大坂政略は、戦いというよりも極めて犯罪の色彩が濃く、これを犯罪とすればその犯行計画は精密を極めた。」

    冬の陣のきっかけとなる方広寺の鐘の鐘銘事件にしても、参謀である金地院崇伝、林道春、天海による言いがかり以外の何物でもないでっち上げ工作の謀議の様子はまさにミステリー小説さながらの面白さである。

    そして、物語の後半に入れば、大阪城から出たことのない「あほう」ではないかとも疑われた右大臣豊臣秀頼が覚醒する。

    それは招募した牢人衆の中でも最も名の知れた後藤又兵衛の影響であった。

    そしてもう一人、家康に負けたことがない真田家の智謀家「真田丸」こと真田幸村の存在である。

    我欲を貫くために謀議を重ね、一種暗い薄汚い我欲をまとった家康対自分のアイデンティティーを確かめるためだけに死に場所を求めて豊臣家に仕えた武士たちとの戦い。夏の陣の火蓋が切られた。

    決戦を決意した又兵衛は大勢の兵の前でこう語った。

    「久しく牢浪して、おそらくはこのまま草木とともに朽ちはつべしと思うたところ、はからずも右大臣家に召し出され、うれしや、かような晴れがましき戦場を与えられた。今生においてもはや悔い残すことはなく、今こそ大恩に酬い参らせるときである。各々頼みに存ずる。」

     

    文庫本にして1600ページという長尺の物語も残すところあと200ページ。

    大阪城の滅亡とともに、この本を読み終えることに何やら寂しさが伴う。

    ずっと読んでいたいと思わせる破格の人間ドラマである。


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