陰鬱の中にたたずむ美しさ ケーゲルの田園

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    JUGEMテーマ:音楽

     

    昨日、今日と伝説ともいえるヘルベルト・ケーゲル「田園」を聴いている。

    最後の来日時の記録である。

    ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団による1989年 10月18日 サントリーホールでの演奏だ。

    伝説となったのは、その音のたたずまいである。

    「田園」にはあまりにもふさわしくない音色である。

    くぐもった響きの弱音で始まるところから「おやっ」と感じるのだが、その後でテンポアップするといっても晴朗さとは無縁の沈鬱ともいえる翳りをたたえている。

    しかし、柔らかな響きは端正で美しい。全くの飾りを削ぎ落した美しさである。

    それは第2、第3楽章でも同じである。

    全体を貫いている色調は暗い。数々の指揮者の「田園」を聴いてきたが、こんな「田園」は初めてである。

    だから、耳に残る。心に響く。

    「田園」にしては明らかに異質な演奏ではあるが、決して不快ではない。

    むしろ、心の奥にまでしみ込んでくるかのようである。

    1年後、自らの命を絶ったケーゲル。

    長い鬱病と闘ってきたとも伝えられる彼の心に映る田園とは安らかな地とは言えなかったのではないか。

    そんなことをふと考えてしまった。

     


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