一人っ子同盟

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    JUGEMテーマ:読書

     

    重松清「一人っ子同盟」(新潮社)を読み終えた。

    重松清にしか描けない世界観が十分にあふれている作品であった。

    昭和40年代。自分自身が丁度、小説中の主人公と同じ小学生だった頃、「一人っ子」といえば、何か特別視されていた時代であった。

    二人や三人兄弟がスタンダードであり、一人っ子は何か異質という目で見られていた。

    なぜ、そう思うかというと自分自身が一人っ子であり、そういう目で見られてきたからである。

    「一人っ子だからわがまま」「一人っ子だから恵まれている」

    ステレオタイプ的な否定的な見方をされてきたような気がする。

    一人っ子だからゆえの心の中の苦しみがあることなど全然頓着されないという時代であった。

     

    この小説はそういった一人っ子の主人公たちに視点があてられている。

    やはり、それぞれに小学生としては重すぎる楔を心に秘めている。

     

    どんなに一生懸命にがんばっても、願ったことがすべてかなうわけではないし、だれ一人悪いひとや間違っているひとはいなくても、すべてが思い通りになるわけではない。

    どうにもならないことって、あるんだよー。

     

    ぼくとハム子にとっての最後の「奇跡の3分間」が訪れて、静かに光に翳りが交り始め、夕日が沈むエンディングの場面の余韻は強烈に心に沁みこんでくる。


    PEACE OUT

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      JUGEMテーマ:音楽

       

      竹原ピストルの待望の新作が出た。タイトルは「PEACE OUT」。

      今回のアルバムも心にズシリとフックする詩に魂がこもったナンバーが多い。

      例えば、2曲目の「虹は待つな、橋をかけろ」。

       

      忘れようとするたびに思い出す 

      思い出そうとした時には忘れてる

      ミサンガのような 虫歯のような

      昨日をぶら下げて歩くのさ

       

      振り出しもなければ

      あがりもないスゴロク

      朝焼けの街にそっところがす

      「1」しか出ないサイコロ

       

      虹は待つな 橋をかけろ

      例え汚すことになろうとも

      その涙に橋をかけろ

      虹は待つな 橋をかけろ

       

      そうだ。ミサンガのような虫歯のような昨日や過去をずるずると引きずりながら、足をとらればがらとぼとぼと歩いていくしかないのだ。それでも、明日をどこかで信じている。苦笑いを嚙みしめて・・・


      ある風船の落下

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        JUGEMテーマ:読書

         

        先日、ある飲み屋で飲んでいたら、そばに居合わせた女性と本の話になった。

        誰の本を読んでいるのかたずねてみたところ「西加奈子」という声がすぐに返ってきた。

        ここ数年、注目を浴びている作家だということは認識していたが、自分はまだ読んだことがなかった。

        表紙がポップな色彩であるという印象も心には強く残っていた。

        今日、図書館に行って早速読んでみた。 「炎上する君」(角川書店)である。

        短編集であるが、ひとつひとつの作品のもつ力に惹きつけられ、あっという間に読破してしてしまった。

        又吉直樹や中村文則が賞賛の言葉を寄せる作家だけのことはあると思った。

        どの作品も読後感がいい。

        希望の余韻が感じられる終わり方になっていて、落ち着いた気持ちになる。

        特に好きだったのは、単行本書下ろしの「ある風船の落下」である。

        溜め込んだストレスがガスとなり、体を膨張させる奇病「風船病」。

        症状の最終ステージは「SHOOT」とよばれ、ものすごい破壊力で地上を離れ、天に漂う運命が待っている。

        そして、徹底的に自我を捨てた人間は本物の風船という美しい球体になって天を漂い続けるのである。

        それは何者にも決して己を傷つけられないという意味においての人間の最終形である。

        だが・・・

         

        「ハナ、聞いて。僕の祖先は迫害を受けた。全くいわれのない迫害だ。そして僕は、この容貌と臆病な性格のせいで、小さいころから苛められてきた。僕は人間が、その悪意が怖かった。世界を憎んだ。みんなが僕を攻撃する、そんな世界を捨てて、ここに来た。でも、ハナ。聞いて。僕は君に会って、君と話をして、何かを信じて、求めることの幸せを思い出した。もし、裏切られたとしても、社会から中傷をくらっても、それでも、誰かを信じることの素晴らしさを、僕は思い出したんだ。君が好きだ。」

         

        「僕は風船にはなりたくない。等間隔のまま、傷つかない代わり、誰とも寄り添うことなく、たったひとりで浮き続ける風船にはなりたくない。」

        やられた。

        また一人。小説の力を感じさせてくれる作家に出会えたことを嬉しく思う。


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