JUGEMテーマ:読書
滅多に買わない文芸誌を購入した。「群像」7月号(講談社)である。
その訳は、表紙の西村賢太 創作2編160枚と「瓦礫の死角」「病院裏に埋める」と言う見出しが目に飛び込んできたからである。
今や日本の文壇において死滅状態である「私小説」の雄である。
芥川賞を受賞した「苦役列車」から始まり、貪るようにその著作に読みふけっていた時期がある。
最近この2年くらいは読んでいなかった。
そういえば、私が愛してやまない山本周五郎の名作「五瓣の椿」を西村賢太も絶賛していたのを記憶している。
さて、収録された2編であるが、お馴染み北町貫太ものである。
「蠕動で渡れ 汚泥の川へ」で描かれていた頃の、憧れの洋食屋に勤めたはものの最終的には店主に叩き出された頃の話である。
叩き出された貫太が戻ったのは、かつて暮らしていた母親克子の家。その母親との激しい相克については、様々な作品で取り上げられているが、この短編の中で初めて垣間見える、貫太が母親からの要請に応えて深夜の往来を共に歩くエピソードには今までに垣間見たこともない温かさが描かれている。
タイトルの「瓦礫」とは実の父親が起こした性犯罪後引き起こした家庭の崩壊を指している。
瓦解し、山積した礫の陰から、七年の歳月を経て現れ出ようとしている者があるのだ。
犯罪被害者が出所した加害者に脅えることがあつても、加害者家族がその当事者の影に恐れ慄くと云うのは、見ようによって何とも滑稽な話である。
すでに背負わされたものは、それは降ろしたくても降ろせぬのであれば、もう仕方ないが、これ以上、あの父親絡みで足を引っ張られる状況に陥るのは、断固御免を蒙りたい。
「まったく しまらねえ人生だよな・・・・」
なるようになれと破天荒を気取りながらも、なるようにならない重荷に怖さを感じている貫太の姿がやけに胸に響く。