JUGEMテーマ:日記・一般
JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:ニュース
講談社文庫から書籍化された山本周五郎コレクション「逃亡記」を一気に読了した。
時代ミステリ傑作選と副題がついているが、収められた6編とも周五郎らしい見事な内容である。
特に、「しじみ河岸」はいつ読んでも心が震える。
人間が人間を裁くということが、間違いだ。
この主人公のセリフが胸にいつまでも深く残る。
生きることに絶望した人間の悲哀を見事に描ききっているだけでなく、人間の裁きの限界をも浮き彫りにする。
この作品を読んで、さる判決を思い出した。今年の4月の裁判である。
被告人である実の父親から中学2年の頃から性的暴行を受けていた女性が起こした名古屋の裁判である。
名古屋地方裁判所の鵜飼裁判長が下したのは何と「無罪」である。
呆れてものが言えないというのはこういうことだということを久しぶりに味わった。
その理由としてあげたのは「抵抗できなかったとは言い難い」。
人間の心を持っているのかと問いたい。明らかに一般常識と乖離している間違った判決である。
家族である父親だからこそ、抵抗できなかった、公にすることが憚られたと同様の被害にあった女性はテレビで訴えていた。
そういう人間の本当の哀しさや機微を斟酌するのが裁判官の務めであろう。
鵜飼何某というその裁判官に言いたい。周五郎の「しじみ河岸」を読めと。
頭だけで法律書に書かれている文意を当てはめようとする心無い判決である。
こういう人間が裁判官であることが、今後こういった犯罪を誘発する恐れがあることを危惧する。
生きることに疲れきった女性の姿に心底参ったとつぶやく「しじみ河岸」の主人公である町奉行の花房律之介の姿にこそ人間が本来有している他者への「情」や「共感」があると言えるのではないか。